投資家も注視する「栄養」、食品会社に改善促す

一人の消費者として受ける影響だけではなく、経営者としての影響も見逃せない。日本を含めたOECD加盟国では、2020年から2050年の間にこのままでは過体重がもたらす影響に対して国の医療予算を平均8.4%上げなければならず、同時にそれによって生産性が低下しGDPが平均3.3%減少すると推計されている[3]

低中所得国で活動する企業は、栄養不良の影響で平均2.9%のGDP減少、アフリカとアジア諸国では最大で11%のGDP減少が生産性の低下によって生じると推計されている。

放っておけば、従業員・雇用側双方における医療費の増加や、日本企業が多く活動しているアジア諸国を含めた国内外の子会社やサプライチェーンの労働生産力にも影響を及ぼし得るリスクと考えられる。

この状況に危機感を感じた各国の機関投資家は、Access to Nutrition Initiative (ATNI) の呼びかけの下、「栄養、食事、健康に関する投資家要望」という形で世界の大手食品会社に期待する行動を掲げている。その期待は、以下の4点にまとめられている[4]

1,明確な栄養戦略を徹底するための経営層での監督責任等、ガバナンス体制の構築
2,活動する全ての国において、誰もが購入可能な価格で健康な飲食商品を提供するための栄養戦略
3,責任あるロビー活動の5原則(Responsible lobbying principles)を利用した健康と栄養の推進に特化したロビー活動の実施
4,この3点に関する取組状況に関する透明性のある情報開示

現在、13.6兆米国ドルの資産を代表する各国60の機関投資家がこの内容に賛同している[5]。今年6月に公開予定のグローバル大手25社を含む食品・飲料会社の取り組み状況に基づき、各社との共同エンゲージメントを実施する予定だ。

その際には、各企業が日本を含めた主要な市場で販売している商品における「健康度合」を測定した結果も、賛同投資家向けに開示していく予定だ[6]。12月に日本で開催予定のTokyo Nutrition for Growth Summit(東京栄養サミット2021)[7]に向けて、今後更に関心が高まると予想されている。

商品を提供する側として、取り組み実態を確認する対象に日本の企業は選ばれているが、そうした企業の栄養への取り組みに関心を明示的に寄せている日本の投資家の姿は未だ定かではない。

消費者として各国の商品から影響を受け得る私たち、経営者として従業員やサプライチェーンの健康と生産性に影響を受ける各社、そして懸命に取り組もうとしている日本の食品会社が存在する中、今後日本の投資家の関心の声が高まってくることに期待したい。

※ATNIの活動に関する更なる情報はこちら、また投資家イニシアチブに関するお問い合わせは、Investor.support(a)accesstonutrition.org までお願いいたします。(a)を@に変えて送信して下さい。


[1] https://www.worldobesity.org/about/about-obesity/prevalence-of-obesity、https://www.ifpri.org/news-release/two-billion-people-suffering-hidden-hunger-according-2014-global-hunger-index-even

[2] https://globalnutritionreport.org/resources/nutrition-profiles/asia/eastern-asia/japan/

[3] https://www.oecd-ilibrary.org/social-issues-migration-health/the-heavy-burden-of-obesity_67450d67-en

[4] より詳細の項目に関しては次の資料の6-7ページをご参照ください:https://accesstonutrition.org/app/uploads/2020/06/Investor-Expectations-on-Nutrition-Diets-and-Health-FINAL.pdf

[5] https://accesstonutrition.org/investor-signatories/

[6] 2018年情報に基づく商品評価はこちら。2021年では評価対象商品に日本が追加され、また、詳細情報が署名機関に公開される予定。http://accesstonutrition.org/company-performance-tool/

[7] https://nutritionforgrowth.org/events-japanese/

kishigami

岸上 有沙

2019年4月よりEn-CycleS (Engagement Cycle for Sustainability)という自らのイニシアチブの元、各種講演のほか、Responsible Investor でのコラム執筆、J-SIF運営委員、AIGCCワーキンググループ等を通じて、ESG投資やサステナビリティに関連した企業・投資家行動とグローバル発信の促進に携わる。2007年よりESGとサステナブル投資に従事し、ロンドンでの勤務を経て2015年より東京に異動。FTSE Russellのアジア環太平洋地域のESG責任者として、企業との対話(エンゲージメント)、ESGインデックスやレーティングの開発と管理、及び機関投資家のスチュワードシップ活動の実行に関するサポートを務めた。慶応義塾大学 総合政策学部卒、オックスフォード大学にてアフリカ学の修士号取得。執筆記事一覧

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..