日本にもESG(環境・社会・ガバナンス)という言葉がかなり浸透してきた。しかし、総じて日本企業は「E」(環境)は積極的であるものの、「S」(社会)と「G」(ガバナンス)が弱い印象がある。多くの企業や組織の内側や外側からガバナンスを見てきた郷原信郎弁護士に話を聞いた。(聞き手=オルタナ編集長・森 摂、オルタナS編集長・池田真隆、写真=山口 勉)
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――企業のガバナンスを向上させるために、経営陣はいかにあるべきでしょうか。

ガバナンスを考える上で、取締役会のメンバーが自立をした行動や発言ができているかが大事です。会社法のガバナンスのルールでは、それぞれが責任ある立場とされている。それは、組織内の慣行や常識にとらわれず、自分で考えて、自分で判断して発言することができることが前提です。

多くの企業は、日常業務では、過去の経験知に基づいて、概ね、正しい判断をしてきました。社外役員にも、特に大きな違和感をもたれることもない。しかし、ひとたび大きな変化にさらされ、重大な問題が発生した時、その重大性に気付いて指摘できることが社外役員の付加価値だと言えます。

未上場の若い会社だと特に多いのですが、社長の強烈な個性に従っているだけで、客観的に見ると間違っている判断がまかり通ることがあります。若い会社こそ、そういう判断を社外役員の存在でどれだけ修正できるかが重要だと思います。

―― 一般株主保護の観点から、経営陣から独立した役員を1名以上確保するという「独立役員制度」が設けられたのは、大きな前進と言えるのではないですか。

現在のルールでは、取引先会社の社長や元社長などが、「取引高は当社売上高全体に比較して僅少」、「取引価格その他取引条件は他の取引先と同様に適正な条件のもとに行っており、当社の自由な事業活動を阻害される状況にはない」などの理由で、「独立役員」と認められています。

恒常的な取引関係がある会社の経営者に、執行部に対して厳しい意見が言えるわけがありません。独立役員の意味を希薄化していることが、「社外役員によるガバナンス」の機能を妨げていると思います。

――日本では20年以上前に、「経営と執行の分離」が始まりました。ただ、いまだに「取締役執行役員」という肩書を持つ経営幹部は多いです。これで本当に「経営と執行の分離」と言えるのでしょうか。

現状は組織としての意思決定が、会社の経験知にもとづいています。だから、執行と意思決定が一体になっているのです。執行とは別のところで、経営上の意思決定をすることは難しいという考え方の企業が多いということだと思います。

――中国の新疆ウイグル自治区の人権侵害問題で、綿の調達は続けると表明した企業に批判が出ています。

何が起きているのか、100%確実な事実を把握できていないので、色々な可能性に分けて考えるしかない問題だと思います。企業としては、国際社会が問題にしていることは、大きく事実は違ってはいないと見るべきでしょう。国際社会の見方を前提に行動しないと社会との友好的な関係を維持できなくなります

――若い人の社会課題への意識は高いので、この変化を感じ取れない企業はリスクに直面するのではないでしょうか。

私が特に感じているのは、10年くらい前から言われていたことですが、アルコールのCMのあり方です。ビールのCMでタレントが豪快に飲み干して、「うまい」と強調することは、欧米では通用しません。日本で問題にならないのは、米国や欧州と比べて、アルコールを社会問題ととらえていない社会だからかもしれません。

――最近、日本のジェンダーギャップ指数が世界で120位であることも大きく報じられました。

ジェンダー意識を持つ人が増えてきましたね。これまでは、男性的な組織で女性が生き残るには、男社会の「しきたり」に従うしか道はありませんでした。能力はあるのに、女性だからという理由で、昇進できない人は少なくありませんでした。その不都合な事実に、社会が気付き始めました。

――「クオータ制」についてはどうお考えでしょうか。

単に数値目標だけを達成しても意味がないです。もっと、長期的なスパンで考えていかないといけないでしょう。女性が活躍する企業をつくるのは、採用から始まります。女性のキャリアをどうつくっていくのかを考えながら数値目標を設定すべきです。