【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス(6)

動物への扱いの酷さ、命の軽視、差別は悪化の一途をたどっている。国は鶏や豚や牛などの畜産動物を収容する畜舎を建築基準法から除外し、畜舎をもっと安く作れるようにしようという特例の法律をつくった。4月に衆議院を通過し、今月、参議院を通過する見込みだ。(認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事=岡田 千尋)

2019年台風の際に、倒壊した豚舎で取り残され、足をけがして歩けない豚

建築基準法では「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的」としている。よ要約すると、建物が崩れたり危険なことにならない最低限の基準を定めた法律である。今行われているのは、この法律の「緩和」である。

具体的にどう緩和されるかは、法律成立後に農林水産省が省令で決めるため、詳細はわからないが、日本の建築基準よりも甘い海外の基準のものを取り入れることなどが見込まれている。地震大国の日本に、それほど地震が起きない国の基準を適用してしまおうということだ。大きな畜舎を建てるコストを安くしたいために、安全を犠牲にするというわけだ。

「畜舎などでの作業は、人の滞在時間が少なく、ほとんど牛しかいないのに、安全マージンが大きすぎると感じる」など、人が少しの時間しか居ないんだから安全基準を緩めよという内容で、この言い分が農林水産省の資料に繰り返し出てくる。

いくら機械化すると言っても、人は立ち入るわけで、労働者の安全をも脅かす。そしてなによりも、そこに動物が常時閉じ込められていることを一切気にしていないことに驚かされる。国も事業者もその非人道的と言える考え方をもはや隠そうとすらしていない。

大きな地震で崩れる可能性は想定内

事業者はA基準とB基準(結構緩めたもの)を自分で選べるようになる。A基準は、建築自体は建築基準法と同等だが手続きを簡略化したものだ。ただし、将来は建築も緩められるかもしれないからA基準で申請しておいたら、いつかメリットが享受できる可能性もある。

一方、B基準は建築自体はゆるくていいというものだ。しかも、農水省の資料には、小さくこう書いてある。「例えば震度5強程度の地震では倒壊しないが、震度6強から7に達する程度の地震では倒壊するおそれを否定できない基準」。

田村貴昭議員(福岡)は、衆議院農林水産委員会で、この耐震性の問題について指摘し、震度6強の揺れというのがどの程度のものなのか、また震度6強以上の地震の頻度を気象庁に質問した。

■震度6強の揺れとは?

震度六強の揺れにおける人の体感、行動は「立っていることができず、はわないと動くことができない」また、「揺れにほんろうされ、動くこともできず、飛ばされることもある」とされている(気象庁 森地震火山部長)

震度6強の地震の頻度については、1996年以降、日本付近で発生した地震で、震度6強以上を観測した地震の回数は20回だ。

つまり、25年間で20回、立っていられなくて、這わないと動けず、人もとばされることもあるような地震が起きているのが日本という国である。

2016年熊本地震がそれに該当しているが、このとき、畜産動物は325,387頭羽が斃死し、12,305件の畜舎が倒壊し、504.7億円の損害が出ている*1。農業用ハウスの損傷が945件と比較すると随分高い割合で倒壊しているのではないか。崩れた畜舎が、基準に適合していたのかどうかは、国は調査していないと言う。

なお、これらの畜産業者は、国の保険に入っていれば被害は補填される。この国の保険には年間850億円が費やされている。でも、動物の命は戻らないし、動物が味わった苦しみも取り消せない。

この法案の検討のために農水省が開催した3回の検討委員会で建築家は危険性を「現行法でもかなり緩和されており、私ども専門家からしても、正直、限度だと思っております」「畜舎基準の低減率があり、既にかなり落としているというところで、正直、これ以上落とすのは無理だ」と強く指摘している。

つまり、B基準では、大きな地震が来たら崩れ、動物たちが無用に苦しむことは想定の範囲内なのだ。

企業が考えなくてはならない視点

法律施行後、建築基準法から外れたB基準で建てられる畜舎が建設されていくことだろう。畜産物を調達する側の企業は、この法律をどう捉えているのだろうか。動物は苦しみも感じ、感受性もあることを認識している人々からすると、なぜここまで動物の苦しみを無視できるのか、もはや理解できない。

アニマルウェルフェアについて取り組み始めている企業も見られるようになってきた昨今だが、調達する畜産物を選定するときの検討事項に、もう一つ加えてほしい。

企業はB基準の畜舎から来る畜産物を調達するべきなのか、それをどうやって避ければよいのか、よく考えてほしい。

融資する銀行や投資家は、これらのリスクを認識して、融資または投資するべきなのか、よく考えてほしい。

*1 平成28年(2016年)熊本地震の農林水産業関係被害の状況 https://www.maff.go.jp/j/saigai/zisin/160414/kumamoto/taiou.html