全ての人に確実なインフォームド・コンセントを(後編)

前編では、コロナ禍において、マスクがコミュニケーションバリアの要因であること、そして、手話通訳、特に病院内に配置した手話通訳の必要性について掲載しました。後編では、病院内に配置されている手話通訳の詳細について述べたいと思います。(NPO法人インフォメーションギャップバスター理事長=伊藤芳浩)

なぜ病院内に手話通訳の配置が必要か

聞こえない・聞こえにくい人は、病院やクリニックで医療従事者と会話する時に、コミュニケーションをサポートする手話通訳を同行することがあります。各自治体に登録されている手話通訳を同行するためには、多くの地域では原則1週間前までに派遣依頼をする必要があります。

このため、急に病気になった時は、手話通訳の都合を調整することができず、依頼を断られる場合が多くあります。こういった手続きの面、また、時間的な制約が原因となり、聞こえない・聞こえにくい人は受療に対して抑制的になる、つまり、病院に行くのを控えてしまう傾向があると考えられています。

誰もが安心して受診できる仕組みづくりが求められている

このような課題を解決するために、病院内に職員として手話通訳を採用配置する「病院内手話通訳者」の考えが広まってきています。病院内手話通訳者は、次のように、自治体から派遣される手話通訳より、質の高いコミュニケーションサポートを行うことができます。

・聞こえない・聞こえにくい人の受診抑制の要因を解消
時間的制約が多い派遣手話通訳とは違い、急な受診等へも対応が可能になる。また、同一人物により継続的で柔軟な通訳ができる。「あの病院には手話通訳が必ずいる」という安心感をもたらし、受診のモチベーションアップにつながる。

・手話通訳の質向上、スムーズ化
同じ病院職員の立場を活用して、電子カルテを参照したり、医療従事者と密なコミュニケーションをとったりすることにより、問題点や疑問点を早目に解消することができる。これは通訳の質を高めることにつながる。また、受付・診察・会計など病院に特有のプロセスの通訳をスムーズに行うことができる。

・聞こえない・聞こえにくい人に対する医療従事者の診察をサポート
「診断、治療方針、投薬内容等の正確な通訳」と「患者の病歴の細かな聴取通訳」などのニーズに応えることで、正確な診療による医療安全性の向上、患者との信頼関係の向上に役立つ。

このように、病院内手話通訳者の採用・配置は、聞こえない・聞こえにくい人だけでなく、医療従事者にとってもメリットが大きいものです。しかし、NPOインフォメーションギャップバスターが筑波技術大学と連携して調査した結果によると、手話通訳者が配置されている病院は全国でわずか0.5%(42病院)であることが明らかになったのです(出典:2020年度調査事業「病院で働く手話言語通訳者の全国実態調査」)

手話通訳者の病院内配置、コストが課題

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伊藤 芳浩 (NPO法人インフォメーションギャップバスター)

特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター理事長。コミュニケーション・情報バリアフリー分野のエバンジェリストとして活躍中。聞こえる人と聞こえにくい人・聞こえない人をつなぐ電話リレーサービスの公共インフラ化に尽力。長年にわたる先進的な取り組みを評価され、第6回糸賀一雄記念未来賞を受賞。講演は大学、企業、市民団体など、100件以上の実績あり。著書は『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』(ちくま新書)など。執筆記事一覧

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キーワード: #障がい

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