「インクルーシブ教育」で企業はCSV創出を

前述の「障がい者の権利に関する条約(第24条)」にある規定によれば、「障がいのある者とない者が共に学ぶ仕組み」が、日本におけるインクルーシブ教育システム構築に向けた動きの大元となっています。

障がいのある人のあらゆる権利を保障する国際条約に見合うためのシステム作りが、今、国内で着々と進められています。しかし、合理的配慮の考えが浸透していないため、なかなか環境が整っていないのが現状です。

「障がいのある子どもが他の子どもと平等に教育を受けるために、学校側がその子どもに必要な変更・調整を行うこと」これが合理的配慮です。

例えば、聴覚障がいのある子どもが先生の話が理解できるように、先生にマイクを付けて、音声認識ソフトを導入して声を文字化したり、視覚障がいのある子どもが物や生物などの形状を理解するために3Dプリンタで模型を作成し、触って学習をさせたりなどすることが、これにあたります。

その子どもに必要な配慮を行うことで、他の子どもと共に学べる環境を整えていくことが、これからますます求められる時代となってきます。

しかし、次の点が主な課題となっています。

・合理的配慮を実施したいがコストがかかる
・合理的配慮を実施するための人材が不足している
・どのような配慮を実施したら良いか分からない

■インクルーシブ教育におけるCSV創出

前述のインクルーシブ教育におけるリソースや合理的配慮の提供にかかわる課題の解決方法として、企業がCSV創出の観点から支援を行うことは意義のあることだと考えます。企業が教育へのCSV創出を通して、若年層の人材育成に関わることは、SDGsの観点から次のポイントが重要になってきます。

【インクルーシブ教育におけるCSV創出がSDGs達成上、重要であるポイント】
・目標4 質の高い教育をみんなに
4.a 子供、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、全ての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。
・目標10 人や国の不平等をなくそう
10.2 2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。

また、企業がインクルーシブ教育におけるCSV創出を行うことによる、企業・教育現場のメリットとしては、それぞれ以下の通りになります。

【企業のメリット】
・製品・サービスの販路開拓・拡大による売上高アップ
・SDGsに貢献することによる企業のブランドイメージ向上
・ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みが重要とされる現代で、障がいを持たない子ども達に前倒しに取り組むことで、人材のベースアップにつなげる
・人手不足が深刻化する中、障がいをもつ子どもたちへの働きかけを通して、障がい者雇用につなげる

【教育現場のメリット】
・予算が厳しい教育現場で、合理的配慮の範囲を広げることができる
・合理的配慮のための様々な手法・ツールを容易に入手できる
・障がいを持つ社員が教壇に立つことで、将来も目標となるロールモデルを提示することができる

このように企業側がインクルーシブ教育に産学協同で取り組むことで、様々なメリットが得られますので、ぜひともトライしてみてはいかがでしょうか。

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伊藤 芳浩 (NPO法人インフォメーションギャップバスター)

特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター理事長。コミュニケーション・情報バリアフリー分野のエバンジェリストとして活躍中。聞こえる人と聞こえにくい人・聞こえない人をつなぐ電話リレーサービスの公共インフラ化に尽力。長年にわたる先進的な取り組みを評価され、第6回糸賀一雄記念未来賞を受賞。講演は大学、企業、市民団体など、100件以上の実績あり。著書は『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』(ちくま新書)など。執筆記事一覧

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キーワード: #ビジネスと人権

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