イノベーション創出に向けた知財投資とは(前)

サステナX

【連載】サステナビリティ経営戦略(9)

IoT、AI、ビッグデータなどによる第4次産業革命と呼ばれる技術革新が進展し、「モノづくり」から「コトづくり」へと産業構造が大きく変化しています。(遠藤 直見・サステナビリティ経営研究家)

また、2050年までのカーボンニュートラル実現が国際的な潮流となる中、脱炭素社会に向けた社会・経済システムの変革が加速し、その実現のためのイノベーション創出が益々重要になっています。

このような動きに伴い、企業価値を決定する要因(競争力の源泉となる重要な経営資源)が、工場や設備等の有形資産から経営人材を含む人的資本および知的財産(特許や意匠等に限らず、技術、データ、ノウハウ、顧客ネットワーク、ブランド、デザイン等を含む)といった無形資産に移行しています。

米国企業(S&P500)では、市場価値構成要素における無形資産の占める割合が年々高まっており、1975年には僅か17%でしたが、2020年には90%まで拡大しています。一方、日本企業(NIKKEI225)は2020年でも32%に留まっています。

日本企業がイノベーションを創出し続け、持続的な成長と中長期の企業価値向上を実現するためには、知的財産を中心とする無形資産投資への戦略的かつ大胆な転換が重要です。

企業と投資家による知財投資・活用促進メカニズムの構築へ

6月のコーポレートガバナンス・コード改訂では、企業の中核人材における多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取組み等と並んで知的財産への投資等の重要性が明記されました。

・経営戦略・経営課題との整合性を意識した知的財産投資等についての開示(補充原則3-1③)
・知的財産投資等の経営資源配分や事業ポートフォリオ戦略の実行が企業の持続的成長に繋がっているかの取締役会による実効的な監督(補充原則4-2②)

また、7月に内閣府の知的財産戦略本部(本部長 菅義偉首相)が策定した「知的財産推進計画2021」では、重点施策の1番目に「競争力の源泉たる知財の投資・活用を促す資本・金融市場の機能強化」が設定されました。

これは簡単に言うと「上場会社等に研究開発や知財など無形資産への投資状況の開示を促し、それを投資家等が分析・評価して企業に資金を投じる流れをつくる」ということです。

日本ではこの流れが十分に機能しているとは言い難く、知財・無形資産の投資・活用戦略(以下、知財投資戦略)を積極的にアピールして資金調達活動を行っている企業が必ずしも多くありません。投資家や金融機関(以下、投資家等)についても、企業の知財投資戦略を積極的に分析・評価して、株主としての責任や適切な金融機能を果たし、イノベーティブな企業活動に積極的な資金提供を行っているとは言えません。

この状況を打破するため、政府は改訂コーポレートガバナンス・コードおよび知的財産推進計画2021等をとおして、企業に知財投資戦略の開示と対話を促し、投資家等から評価され、更なるイノベーション創出に向けた資金獲得を可能とする「知財投資・活用促進メカニズム」の構築を促進しようとしています。

そのためには、まず企業が経営戦略と連動した知財投資戦略をストーリーとして分かり易く開示し、特許データなどの定量的な分析情報も加味しながら、投資家等と積極的に対話・エンゲージメントを行うことが重要になります。

次回は、イノベーション創出に資する知財の投資戦略の開示の観点から日本企業が実施すべき具体的な取り組みについてご紹介します。

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..