オルタナは10月18日、読者会員向けセミナー「『六方よし経営』を語る」を開いた。「六方よし」とは、近江商人の「三方よし」に「作り手よし」「地球よし」「未来よし」の3つを加えた経営理念だ。『六方よし経営』(日経BP)を出版した経営エッセイスト・藻谷ゆかり氏と、地域エコノミスト・藻谷浩介氏(オルタナ客員論説委員)が登壇し、社会課題の解決につながる企業事例について語った。(オルタナ編集部=吉田広子、山口勉)

「六方よし経営」について語る藻谷ゆかり氏(左)と藻谷浩介氏

「六方よし」は「和のSDGs」

「六方よし」とは、近江商人の「三方よし」(売り手よし)(買い手よし)(世間よし)に「作り手よし」「地球よし」「未来よし」を加えた経営理念で、元国連職員の田瀬和夫氏が提唱した。

藻谷ゆかり氏は、この「六方よし経営」を「和のSDGs(持続可能な開発目標)」と表現し、「これからの経営は『六方よし』でなければ生き残れない」と強調する。

「すべて必須なのは大前提だが、今後注目すべきは『地球よし』『つくり手よし』ではないか。環境問題に取り組まなければ人類は生存できない。まずはすべてのベースとなる『地球よし』が重要だ。企業にとっては『つくり手よし』が実現しなければ商品やサービスを供給できなくなる。従業員に限らず、供給元の企業も良い状況なのか、無理をさせていないか、といった点にも配慮しなければならない」(ゆかり氏)

ゆかり氏は「六方よし経営」を実践する企業を、「事業承継」「社会的起業」「地域起業」の分野に分けて4つの企業事例を解説した。

「事業継承」の例として紹介したのは、奥能登の酒造・数馬酒造五代目として後を継いだ数馬嘉一郎さんだ。耕作放棄地を水田にしたり、地元の遊休施設を醸造施設として活用したりするほか、杜氏が辞めた後に若手社員による新たな酒造りを推進した。

「社会的起業」の例としては、学生服リユースショップ「さくらや」を運営する馬場加奈子さんを紹介。馬場さんは入学時に大きな出費になる制服や体操服、カバンなどをリユースできるビジネスモデルを構築し、全国に60店舗以上を構える。

「地域起業」の例としては、柿酢の醸造・販売を行う伊藤由紀さん、東京都檜原村で林業の六次産業化に取り組む東京チェンソーズの青木亮輔さんを取り上げた。

伊藤さんは2016年から、自身の故郷である岐阜県海津市の柿を使った柿酢を製造。規格外の柿を使い、水を一滴も加えない静置製法で1年以上かけて柿酢を熟成させている。

東京チェンソーズは森林組合を通さず、国内でも珍しい地主から直接仕事を受ける体制を構築している。通常なら捨てられる端材なども商品にする、「1本丸ごとカタログ」などこれまでになかった取り組みを進め、生産から流通、檜原村と協働で「森のおもちゃ美術館」を運営するなどサービス業も合わせた6次産業化を展開するなど「六方よし」経営の好事例となっている。

「お金を出した人がえらい」は古い価値観

「里山資本主義」で知られる藻谷浩介氏は、ゆかり氏の義理の弟にあたる。平成合併前の全3200市町村、海外114 カ国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握してきたという。

浩介氏は「実はこうした社会課題を解決するような事業は、既存のビジネスや組織とバッティングしてしまう難しさもある。例えば、一般的なリサイクルショップとさくらや、森林組合と東京チェンソーズなどがそうだ。だが、競合することなく、それぞれの良さを生かしたビジネスモデルを構築し、事業を継続していることが素晴らしい」と評価する。

「六方よし経営」での株主の位置付けについて、ゆかり氏は「株主資本主義の問題は全人類の課題」としたうえで、「大企業であっても、『六方よし経営』を行わなければ、消費者の支持を得られない。『六方よし経営』を行うことで、消費者からも支持され、中長期的に見れば株主に還元される」と話す。

浩介氏は「企業にとって、『六方よし経営』に取り組むことは、良い株主を得ていくことにつながる。お金は経営資源のごく一部であり、お金を出した人がえらいというのは古い価値観だ。一緒に世の中を良くしたいという価値観を共有できる株主を得ることが、企業の発展にとっても重要だ」と話した。