企業のコンプライアンス違反や不祥事には「カビ型」と「ムシ型」がある。組織的なデータ改ざんや隠ぺいなどは「カビ型」の典型だ。組織的な不正が起きる背景には何があるのか。対応策はあるのか。ガバナンスに詳しい郷原信郎・弁護士とオルタナ編集長・森 摂が対談した(第11回オルタナハウスレポート)。(オルタナS編集長=池田 真隆)

――まずはガバナンスの話から伺います。2015年に「コーポレート・ガバナンスコード」ができて、6年が経過しました。企業のガバナンスはこの間、どう変わりましたか。
この6年間でガバナンスが十分に進歩したとは言えないでしょう。社外取締役が増えたという意味では進歩しましが、それが実質的にガバナンスの強化につながってはいません。
ガバナンスは複雑な概念です。最も単純化すると、株式会社であれば、オーナーである株主の利益が最大限に確保される行動を指します。しかし、大企業の社会的責任は大きいのです。単なる「株主利益の最大化」では必要十分と言えません。このことは、多くの株主も企業人も認識しています。
「ガバナンスは何のため」という問題意識が重要です。コーポレート・ガバナンスコードについて議論するといつも出てきますが、内部昇格した役員たちが既得権益を重視してしまうと株主利益を損なうことがあります。だから、社外取締役を入れて株主利益を確保しようとしますが、これはガバナンスの一部に過ぎません。
ガバナンスは、企業としての意思決定を健全に行うシステムを指します。単に組織としての形が整っているだけでなく、あらゆる「社会の要請」に応える「広義のコンプライアンス」の観点を踏まえた意思決定が必要です。
企業内部だけで意思決定をすると、ガバナンスが健全に機能しないので、この数年の制度改革で社外役員の意見を取り入れるべきと言われてきました。相当程度実現しましたが、社外役員を入れたということだけで評価されている面があります。
企業は、サステナビリティを実現する方向に向かって健全な意思決定ができているか。私が見る限り、そうではない事例が多いです。
典型的なのは、株主の利潤を増やすためのガバナンスではなく、企業が不祥事を起こしたときのガバナンス対応です。十分に議論はされず、しっかりとした制度改革が行われてこなかったと思います。
――どれだけ企業が気を付けていても、不祥事は尽きません。不祥事が起きやすい背景には何があるのでしょうか。
例えば、2017年に発覚した神戸製鋼の品質データの改ざん問題があります。これは、「カビ型不祥事」という視点から考えるべきですね。
「カビ型」とは、組織の利益のために、組織の中で長期間にわたって恒常化し、何らかの広がりをもっている行為のことです。「ムシ型行為」というものもあり、これは個人の利益のために、個人の意思で行われる単発的な行為を指します。
「カビ型」は現場で起きていることが潜在化して発見することすら困難な事象で、この品質データ改ざん問題は典型的なカビ型行為でした。
カビ型に対するガバナンスとしては、現場から問題を抽出して発見するために適切な対応を取ることしかありません。
そこで、企業内で潜在化しているカビ型の問題行為を把握するための効果的な方法として、「問題発掘型アンケート調査」があります。
(日経BizGate「郷原弁護士のコンプライアンス指南塾」(2016/9/16) ご参照)
多くの大企業において、全社員を対象とするアンケートによる意識調査が行われています。しかし一般的には、企業内の各部門別、階層別の意識・認識を全体的に把握し、人事労務上の施策や研修教育などに活用することが目的であり、具体的な問題の把握に結び付けにくいのです。
このアンケート調査は、そのような従来の意識調査とは違います。企業の組織内で具体的に発生している問題などを把握し、必要な対策を講じることを目的とする全社員が対象のアンケート調査です。
――「カビ型行為」が起きやすい企業の特徴は何でしょうか。