レオス・キャピタルワークス 藤野英人会長兼社長 インタビュー

日本でもESG(サステナブル)投資が全体に占める割合(2020年、GSIA調べ)が24.3%と、4年前から20ポイントも増えた。世界全体でも約3分の1がESG投資だ。一体、誰が投資家を動かしているのか。投資信託「ひふみ」シリーズを運営するレオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長の藤野英人氏は、「突き詰めると市民」と言い切る。(聞き手はオルタナ編集長・森 摂、オルタナS編集長・池田 真隆)

藤野 英人(ふじのひでと) 
レオス・キャピタルワークス株式会社  代表取締役会長兼社長 
1966年富山県生まれ。国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。
「ひふみ」シリーズ最高投資責任者(CIO)。投資啓発活動にも注力し、JPXアカデミーフェロー、東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授を務める。一般社団法人投資信託協会理事。近著に『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)、『14歳の自分に伝えたい「お金の話」』(マガジンハウス) 。

■「投資する側の見識」も問われる時代に

――ESG投資が高まっていますが、一方で「投資する側の見識」も問われる時代になりました。

私たちが投資における社会的責任として強く意識していることは、投資先の企業の先には消費者、つまり市民・国民がいるということです。

投資という経済行為は、投資家と企業の取引だけではなく、国民まで含めて全部がつながっているのです。投資家として、このことを理解することが大事です。

大学生など若い世代に教える機会がありますが、彼ら/彼女らと話しをすると毎年、サステナビリティへの関心が高まっています。この流れは加速していて、いずれはサステナビリティを意識しない企業には就職しないし、モノやサービスは買わない時代になると思います。

今後、企業が50年、100年と生き残るためには、環境や人権を考えていないビジネスモデルでは通用しません。業績も株価も悪化するのです。ESGやSDGsは「左派のコンセプト」ではなく、企業にとって成長戦略であるし、取り組まないことは大きなリスクです。

ESG投資については、資産運用会社として、2つの側面で促進すべきだと考えます。一つは、レオス・キャピタルワークスとして恥じない投資であるかどうか。誇れる会社であるのかを検証しています。もう一つは投資の中に、ESG観点を組み込んでいく(統合する)ことです。

当社ではESGスコアリングコミットメントを出して、グローバルの観点からESGやSDGsに取り組んでいる企業の実態を見なさいと担当者に指示を出しています。

■ESGスコアの高い企業への評価が高まる

――投資する側として、ESG投資は中長期的な利益に結び付くと確信していますか。

ESG投資に対するシフトは、GPIFが2015年にPRIに署名したことで大きく変わりました。相次いでESG関連のファンドが生まれました。そこにお金の流れが明確にできたのです。

結果的にお金のシフトが起きたから、株価が上がったと言えます。ESGスコアの高い企業への評価は高まっていて、株価のパフォーマンスに強い影響を与えていることは間違いありません。

――フランスの食品大手ダノンは3月、当時のエマニュエル・ファベールCEOを解任しました。ファベール氏はESG経営を打ち出していましたが、短期的な業績不振を問われ、株主から交代を求められていました。この事例をどう見ましたか。

ダノンの教訓は、経営者がESGを強調し過ぎると、収益や株主利益を追い求めるのではなく、「趣味」に走っていると見られてしまうことです。

ただし、近年ではSRIを掲げるヘッジファンドも出ているし、ESGに取り組んでいない企業には、株主の権利を行使して、ESGの専門家を送り込むなどの動きが起きました。つまり、お金の流れが両サイドで渦巻いている状況なのです。この渦はそのうち収斂していくはずです。

分かりやすく言うと、「投資先におけるESGに関する支出はコストか投資か」という話です。コストだと単なるコストで終わってしまいますが、投資と考えると長期的に株主利益として戻って来ます。

今はこの意見が割れています。ESG投資は盛り上がっていることは確かですが、ESG礼賛にはなっておらず議論をしている最中だと見ています。

真面目にESGに取り組むのは300社程度

――企業文化の側面から見ると、日本のビジネスパーソンは「きれいごと」を嫌う傾向にあります。環境、社会、ガバナンスのESGも、一見してきれいごとに聞こえます。ESGで日本のビジネスパーソンが動くのはなぜだと思いますか。

動いていると言っても私が見る限り、上場企業約3800社のうち、真面目にESGに取り組んでいるのは300社程度です。その300社に関しては、グローバルマーケットにつながっているので、ESGの取り組みは年々レベルが上がっていく。

一方で、多くのその他の企業は、ESGは「絵に描いた餅」だと思っていて、意味がないものだと思っている。一言で言うと、「真面目に取り組んでいない会社はたくさんある」というのが現状です。

投資家側も同じで、10年以上前からESGという言葉はありましたが、大きなトレンドにはなりませんでした。ただ、ここに来て、猛暑やハリケーン、寒波が世界各地で発生し、大きな被害が出て、特に海外から気候変動が切実な問題だと伝わってきました。ESG投資の潮流を肌感覚で感じるようになったのです。

世界のESG潮流は日本株にも影響している

――今年の8月には過去170年で最強レベルと言われたハリケーン「アイーダ」が米国を襲いました。これにより米国人の気候変動への危機感は高まりました。一方、日本でも豪雨災害が相次いでいるのに、声を挙げる人は少ないように見えます。

日本人は自然災害に慣れ過ぎていることもあると思います。「水に流す」や「自然に返す」という言葉があるように、自然は人間がアクションできないもの、人間は自然にあらがえないという文化があるのではないでしょうか。

欧米は自然も含めてコントロールできる、人の行為次第で自然の変化に対処できると考えているように見えます。

確かなことは、世界のお金はグローバルにつながっていて、日本市場は個人投資家が減って、外国人投資家が増えています。日本のマーケットは外国人投資家の意向で決まるようになった。その意味では、世界で起きているESG投資の流れは日本株にも影響を与えることは必然です。

――ESG経営を打ち出している企業はESGの面で成長していると思いますか。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(国連責任投資原則)に署名したから取り組んでいるという見方もあります。

私はこの点は楽観的に見ています。吉田兼好の言葉にあるように、善人の真似をした人が善人で、泥棒の真似をすれば泥棒です。つまり、ESGに取り組めば、その本質を理解していなくても善人なのです。

ただ、これは日本の問題ですが、一人ひとりの市民が自発的に社会を変えるという意識が低いです。本来、ESG投資は投資家そのものが主体となって、社会を変えていく動きですが、日本の投資家でそう思っている人は少ないです。ブームに乗っているだけの人は多いでしょう。

投資は「零細なお金の集合体」