連載:企業と人権、その先へ(8)

英・グラスゴーで気候変動に関する国際会議であるCOP26が開幕した。岸田首相も現地に赴き、日本政府の取り組みについてスピーチをしたものの、早速、温暖化対策に後ろ向きな国にNGOが贈る「化石賞」を受賞するなど、気候変動への取り組みについて国際社会でリードしているとは言い難い状況である。(弁護士・佐藤 暁子)

COP26に合わせて、注目すべき発表があった。それが、World Benchmark Alliance(WBA)による、企業のJust Transitionに対する取り組みの報告書である。

2018年に発足したWBAは、社会と世界経済をより持続可能なあり方に導くために必要な金融、脱炭素とエネルギー、食糧と農業、社会といった7つのテーマに関して世界で影響力のある2000社の取り組みを評価し、サステナブルな社会への移行を促進することを目的としたイニシアチブだ。

人権に関するベンチマークの一つである、Corporate Human Rights Benchmark(CHRB)もこのイニシアチブの一つとなった。WBAは、ここ数年、Just Transitionに関する指標のコンサルテーションを行い、その結果に基づき、企業の取り組みを点数評価した。

そもそもJust Transitionとは何か。国際社会、とりわけヨーロッパでは、コロナの影響も相まって、社会の格差を是正しつつ、気候変動の取り組みも進めるためのアプローチとして、このJust Transitionが至るところで強調されている。

日本語では「公正な移行」と訳されることが多い。これは、地球温暖化への対策を行うなかで、平等で公正な(=just)方法での脱炭素社会への移行を目指す概念である。

気候変動対策が急務であることは論を待たないが、一方で、既存の産業構造を変革することは、現在、その産業で働いてる人々が職を失うことも意味する。

例えば、2018年にフランスで起きたイエローベスト運動は、炭素税の導入をめぐり、石油産業で働く人々が生計の確保を訴えたものである。

公正な移行は、何も新しい概念ではなく、1970年代のアメリカの労働組合問題にまで遡ることはできるものの、2015年パリ協定で言及されて以降、気候変動への取り組みにおける重要な論点の一つとなった。

国際労働機関(ILO)は、2018年、化石燃料に過度に依存している現在のエネルギー産業から、脱炭素型エネルギーの産出・利用は600万人の雇用を失わせる一方で、アジア太平洋地域を中心に2400万人の新たな雇用を創出すると試算した。

WBAはこのような公正な移行を企業が促進するために必要な取り組みとして、以下の6つの分野を提示している。

1,公正な移行における社会対話とステークホルダー・エンゲージメント
2,公正な移行のための計画
3,グリーンでディーセントな仕事の創出
4,人材の確保と再雇用、および/またはスキルアップ
5,公正な移行のための社会的保護と社会的影響のマネジメント
6,公正な移行のための政策と規制のためのアドボカシー

今回の報告書では、180社の企業の取り組みに対する評価が紹介されているが、「低炭素社会への移行を行っているとしても、『公正な』移行に取り組んでいる企業は全体的に少数である」と指摘されている。

そして、公正な移行に向けて企業と政策立案者が早急に取り組む必要があること、それなくしては、労働者や地域社会が取り残されるだけでなく、生活を脅かされている労働者や地域社会の市民の不安により、社会変革全体が損なわれる危険性があると警鐘を鳴らしている。

日本企業も、石油・ガス、電力、自動車会社など合計16社が評価対象となっているが、16点満点中、最高点は出光興産とホンダの3点という予想通りではあるが、大変残念な結果であった。とりわけ、上記分野について5と6は全ての企業が0点と、その取り組みが急務であることを示している。

報告書によれば、公正な移行が企業の人権尊重に基づくものである必要がある一方で、180社中、国連ビジネスと人権に関する指導原則によって求められる人権デューディリジェンスを実施しているのはたった12社のみだった。これは、公正な移行と人権尊重の取り組みの繋がりが欠けていることを浮き彫りにしている。

気候変動対策が新たな産業を開拓し「成長」を促すという側面が強調されることが多いが、大前提として、誰一人取り残さない、とりわけ社会において脆弱な立場にある人々の生活が保障されるための施策を官民が連携して進めることが必要不可欠であることはもっと強調されるべきであろう。