【連載】:ESGアクティビズム最前線(1)
ESG投資に大きな地殻変動が起きています。「ESGに関するリスクを減らす企業に対し、株主総会で組織票が投じられるようになったら――。ゲームオーバーの日を迎える企業が出てきます」――。世界の上場企業にこう警鐘を鳴らすのは、直近の株主総会シーズンで188の上場企業に対して働きかけた実績を持つ米国の大手株主擁護団体・AsYouSow創設者のアンドリュー・べーハー氏だ。べーハー氏は株主として企業に変革を迫る「株主アクティビズム」の先駆者の1人として知られる。(松木 耕)
株主アクティビズムとはかつて「物言う株主」として知られるアクティビストファンドらが企業の「財務」に潜む問題に目をつけ、株式を大量保有して経営陣に働きかけることを主に指していた。
具体的には業績が伸び悩む企業の経営陣の解任や株主還元の充実を要求する大株主が、株主総会での委任状争奪戦や株主代表訴訟、敵対的TOB(株式公開買い付け)を行ってきた。
しかし、その潮流に世界的な変化が起きている。株主擁護団体や資産運用会社、非営利団体などが上場企業の株主として「非財務」の側面に問題提起を行い、企業がそれらの要求を飲む事例が頻発しているのだ。
企業活動が引き起こす環境問題や人権問題が企業価値に関わる大きなリスクとして投資家に認識されていることがその大きな要因として考えられる。
なかでも環境問題に対する株主の関心は高まっている。米法律事務所ギブソン・ダンの調査によると、直近の米国の総会シーズン(2020年10月初旬〜21年6月初旬)で上場企業に対して提出された株主提案のうち、気候変動にまつわる議案の提出数は83と、前の期の54から大きく数を伸ばした。株主による平均賛成比率も49.9%と前の期の32.1%から上昇した。
企業の取締役会にも厳しい目が向いている。米石油大手エクソン・モービルの気候変動対策を問題視した新興ファンドのエンジンNo.1は同社に対して取締役4名を推薦。5月の株主総会で、そのうち3名が選任されたのだ。この役員交代劇は日本でも大きく報じられたところだ。
日本企業でも今年は大きな動きがあった。豪・環境NGOのMarket Forcesが住友商事に対して気候変動対策の改善を求める株主提案を提出し、大手の機関投資家を含む2割の株主から賛同を得た。
非営利団体の気候ネットワーク等に所属する個人株主らが三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)に対して提出した、気候変動対策の改善を求めた株主提案も23%の賛成比率を獲得している。
日本では来年2022年4月に東京証券取引所の市場再編が予定され、最上位の「プライム市場」の企業には気候リスクの開示が求められる。企業は株主との対話の場面でも自社の施策を説明し、企業の社会的価値を発信することがより一層求められることになりそうだ。
参照元:
■ 【インタビュー】 アンドリュー・べーハー氏 (AsYouSow CEO),(2021年10月, 独自の取材に基づく)
■“SHAREHOLDER PROPOSAL DEVELOPMENTS DURING THE 2021 PROXY SEASON” (Gibson Dunn, 2021年8月, )
■「投資家向け説明資料 | 住友商事への気候関連株主提案の提出」(2021年3月29日,Market Forces,
■ 「MUFGへの株主提案の議決結果について (第1次集計)」(2021年11月19日, 気候ネットワーク