ポール・マッカートニー氏は3月下旬、4月4日に退任した米スターバックスのケビン・ジョンソン前CEOに植物性ミルクへの追加料金撤廃を訴える手紙を出していたことが分かった。手紙では、今年に入り英スタバが約60円だった植物性ミルクの追加料金を撤廃したことに触れ、米国でも同様の経営判断をするように求めた。表向きは「値下げ」を求める動きに見えるが、背景には企業に動物福祉への対応を求める「潮流」がある。特に欧州や米国ではコロナ禍によって野生生物への愛情が高まっており、その動きは加速している。(オルタナS編集長=池田 真隆)

植物性ミルクへの追加料金撤廃を求めるポール・マッカートニー氏、画像はPETAが作成

ポール・マッカートニー氏がケビン・ジョンソン前CEOに送った手紙の全文は下記の通り。

Dear Mr Johnson,

It recently came to my attention that Starbucks in the USA has an extra charge for plant based milks as opposed to cow’s milk.  I must say this surprised me as I understand that in other countries like UK and India, there is the same charge for both types of milk and I would like to politely request that you consider this policy also in Starbucks USA. 

My friends at PETA are campaigning for this to happen and I have agreed to support them with the quote: “Sir Paul is asking Starbucks to end its Surcharge on plant milks,” and I sincerely hope that for the future of the planet and animal welfare you are able to implement this policy.

Many thanks.

All the Best,

Sir Paul McCartney

■日本語訳
ジョンソン様

最近、アメリカのスターバックスが、牛のミルクと対照的に(牛のミルクには追加料金なしなのに)植物性のミルクに対して追加料金を取っていることに気が付きました。 イギリスやインドのような他の国では、両方のミルクに同じ料金がかかることを理解しているので、この方針をアメリカのスターバックスでもご検討ください。

PETAの友人たちはこの件でキャンペーンを行っており、私は「ポール卿はスターバックスに植物性ミルクの追加料金を廃止するよう要請しています」という引用で彼らを支援することに同意しました。そして、私はあなたが地球と動物の命のためにこの方針を実行できることを心から願っています。

ありがとうございます。
ポール·マッカートニー卿

世界的に有名なミュージシャンであるポール・マッカートニー氏は動物愛護団体のキャンペーンに積極的に参加する活動家の一面も持っている。これまでに、週に一度肉食をやめる「Meat Free Monday」を呼びかけたり、2020年には英国政府が学校の給食で肉を出すことを義務化したことについて規則を変えるよう訴えたりしてきた。

ベジタリアンとして「菜食」を訴えるポール・マッカートニー氏の原体験は実家の農場にある。飼っていた子羊を食べることに違和感を持ったことがベジタリアンになったきっかけだという。

「子羊たちはやっとの思いで生まれてきて、この世界にお母さんと一緒にいて、仲間と楽しんでいて、そして、殺される。ぼくは、そのことは必要ないと思っている」と認定NPO法人アニマルライツセンターが2015年に日本で行ったインタビューで話している。

米国に本部を置く動物愛護団体PETA(ピータ)とは30年以上活動をともにし、「盟友」と呼び合う仲だ。今回手紙を送付した取り組みもPETAとの「協働」の一つだ。

米国のスタバでは植物性ミルクを約70円で販売している。手紙ではフィルズコーヒー、パネラブレッド、プレタ・マンジャーなどのコーヒーチェーンが追加料金なしで乳製品を使わない植物性ミルクを提供しており、英国のスタバも追加料金を引き下げたことを引き合いに出し、米国のスタバにも追加料金をなくすことを求めた。

欧州や米国では、企業に動物福祉(アニマルウェルフェア)への対応を求める声が高まっている。長期化するコロナ禍でライフスタイルが一変したが、ストレスを癒す存在として自然や野生生物が注目されだしたことが背景にあるという。

英国の動物福祉団体「ウェルフェア・クオリティ・ネットワーク」の調査では、スウェーデンでは消費者の83%、英国では73%が動物福祉を重要視していると回答した。さらに、米・ユーガヴ社の調査では、米国人の約3分の2が、動物福祉の面で評判の悪い企業から食肉を購入する可能性は低いと答えた。

PETAとしてはこの手紙を通して狙うのは、乳製品のない植物性ミルクへの完全切り替えだ。農場で強制的に妊娠させ、妊娠できなくなると屠殺するという残虐性と温室効果ガスの排出による環境負荷の観点から植物性ミルクの取扱量を増やすことを訴える。

国連食糧農業機関によると畜産業は世界の温室効果ガス排出量の14.5パーセントを占めると公表している。オックスフォード大学のBBC気候計算機は、1日に1杯の牛乳を飲むためには年間45,733リットルの水が必要だと試算した。一方で植物性ミルクのオーツミルクを1日に1杯飲むためには年間3,512リットルの水で済むという。

手紙は3月20日から27日の間に送付され、4月4日に退任したケビン・ジョンソン前CEOに退任する前の最後の経営判断として求めた形だ。だが、4月5日時点で返事はないという。

スターバックスの特徴は、店舗を展開する各国の市場に合わせて実証実験を行うことだ。実験で得た内容を他国に共有することもある。最近では使い捨てカップやプラスチック製のフタ、スプーンやフォークの削減に向けた実証に各国で取り組んでいる。

価格については、製品やマーケットごとに判断する。ロイヤルカスタマーへの価値提供と新規顧客の誘因という二つの側面のバランスを見ながら、事業性も踏まえて決める。米国のスタバでは植物性ミルクを約70円で販売しているが、これは他店舗が提供している価格と同程度だ。

PETA Asia Japanの今井レイラ氏は、通常のミルクと植物性ミルクのコストを比べると植物性ミルクのほうが「安いのではないか」と指摘する。その理由として、水の使用量やエサの穀物調達費などが少ないことをあげた。

日本では4月から「ラテ」が植物性ミルクの追加料金なしに

一方、日本のスターバックスは米国よりも先に進む。4月13日から人気商品である「スターバックスラテ」の植物性ミルクへの変更を無料にする。これまではソイ、アーモンド、オーツの植物性ミルクに変えるには50円の追加料金がかかった。

この値下げ対応について、スターバックス コーヒー ジャパン広報部の鈴木教子氏は、「スターバックスラテという多くの皆さんが楽しまれる商品において、より皆さんが気分やタイミングに合わせて、ご自身にピッタリな商品を楽しんでいただきたいという想いから決めました」と回答した。

ソイやアーモンド、オーツはそれぞれ異なる風味を持つ。同じラテでも味わいが異なるので、気分に合わせて楽しめるようにしたという。

2050年カーボンニュートラルが世界の「共通目標」になったいま、企業は脱炭素に取り組むことが至上命題だ。日本のスタバは「楽しさ」で共感を得ながら、結果的に環境配慮につなげる戦略を取る。