連載:企業と人権、その先へ(9)

11月29日から12月1日まで、年次のビジネスと人権フォーラムが昨年に引き続きオンラインで開催された。初日には、2011年に承認され、今年10周年を迎えた国連ビジネスと人権に関する指導原則の今後10年に向け、行動が必要である8つの分野(アクションエリア)について、具体的なゴール設定をしたロードマップが発表された。(弁護士・佐藤 暁子)

ロードマップは、「次の10年に向けて今必要なのは、野心を高め、実施のペースを上げて、一貫性を高め、より大きなインパクトを与えること」と述べている。この10年間を振り返ると、進んだことは数多くある。

日本国内だけを見ても、人権方針の策定から始まり、人権デューディリジェンスを実施する企業は増えてきた。海外では英国現代奴隷法、フランス人権デューディリジェンス法、そして直近では、ドイツのサプライチェーンデューディリジェンス法と、法律の策定も進んでいる。しかし、そもそも指導原則が目的としているライツホルダー(人権の主体)の権利の実現は進んだのだろうか。

すべきことはまだまだ多い。しかし、その中でもとりわけ重要なのは、影響を受ける当事者を巻き込んだ「ステークホルダーエンゲージメント」である。

上記ロードマップでも5つ目のアクションエリアとして「より多くの、より良いステークホルダーエンゲージメント」が掲げられ、そのゴールは「保護、尊重、救済を強化するために、有意義なステークホルダーの関与を確保する」ことである。

では、そもそもステークホルダーとは誰のことを指すのだろう。自社内の労働者はもちろんのこと、労働者の声を代表する労働組合、子ども、障害者、セクシュアルマイノリティ、また、地域社会や環境活動家、NGOなど市民団体、あるいは先住民など多岐にわたる。

そして、このようなステークホルダーとのエンゲージメント、つまり、「企業と潜在的に影響を受けるステークホルダーの間の継続的な交流及び対話により、企業がステークホルダーの関心と懸念を聴き、理解し、協働的なアプローチを含む対応を取ることを可能とするプロセス」を継続的に実施することを企業は人権の取り組みにおいて求められる。

ロードマップでも、意義のあるエンゲージメントを行うことによって、「ビジネスにとってのリスクだけではなく、人々にとってのリスクに焦点を当て、特に脆弱な状況にある権利者に焦点を当てる(ジェンダー関連のリスクへの配慮を含む)という指導原則の呼びかけに従うことで、『ステークホルダー資本主義』への移行、持続可能な開発、誰も取り残さない公正な移行(Just Transition)を促進することができる」と指摘する。

人権デューディリジェンスを実施する際に、自社内からサプライチェーンの上流・下流に至るまで、一体、誰のどのような人権リスクがあるか、調査・検討すべき範囲は当然広い。

その全てを企業だけで把握することは、現実的に不可能である。だからこそ、影響を受ける当事者を巻き込んだ取り組みを進めなくてはならない。それによって初めて人権リスクの具体的な内容を特定することができる。

また、そのリスクを予防、軽減する措置、あるいは、実際に人権侵害が顕在化した場合の実効的な救済措置の実現にもステークホルダーエンゲージメントは必要不可欠である。

本年11月30日 に経産省が公表した「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査結果」では、外部ステークホルダーが関与する機会を設けているのは、人権の取り組みをしている企業のわずか3割であった。

また、外部ステークホルダーとしても、専門家が67%と最も多く、次いでNGO/NPOが47%、投資家が42%、地域住民は14%であった。

これから人権デューディリジェンスを本格的に実施する企業も多いだろう。上記の趣旨を踏まえたステークホルダーエンゲージメントをその計画の中に組み入れることが、実効性に大きな影響を及ぼすことを肝に銘じる必要がある。