■【連載】サステナビリティ経営戦略(17)■
前編では、政府が策定した「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」についてご紹介しました。後編では、知財・無形資産を活用したビジネスモデルの価値創造ストーリーについて事例を交えながら解説します。(サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)
IIRCフレームワークを活用した価値創造ストーリー例
国際統合報告評議会(IIRC)のフレームワークでは、ビジネスモデルを「事業活動を通じて、インプットをアウトプット及びアウトカムに変換するシステム」と定義しています。
価値創造ストーリーとしては、自社の強みとなる知財・無形資産(インプット)を、どのような事業化(事業活動)を通じて、製品・サービスの提供(アウトプット)及び社会価値・経済価値の創出(アウトカム)に結びつけるかという一連の流れに加えて、インプットとなる知財・無形資産の維持・強化に向けてどのような投資を行っているかについても説明することが重要です。
前編でご紹介した「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」などを参考に、IIRCフレームワークを活用した価値創造ストーリー例をご紹介します。
・インプット:特許とノウハウによって守られた高効率で低環境負荷のデバイス設計・製造に係る技術力(強みとなる知財・無形資産)
・事業活動:コア技術を徹底的に秘匿する巧みなオープン&クローズ戦略と他社に技術をライセンスし製造委託するファブレス経営
・アウトプット:他社に真似のできない高効率で環境負荷が極端に低い製品
・アウトカム:高い収益性(経済価値)と脱炭素及び循環型社会実現への貢献(社会価値)
・知財・無形資産の維持・強化に向けた投資:積極的な研究開発投資とスタートアップとのアライアンス、研究者・技術者のモチベーション向上に向けた処遇改善等
バランスト・スコアカードを活用した価値創造ストーリー例
ビジネスモデルの価値創造ストーリーを説明するためのフレームワークとしてバランスト・スコアカード(BSC)も参考になります*1。
BSCの4つの視点(学習と成長、業務プロセス、顧客、財務)でビジネスモデルの主要成功要因(CSF)を整理し、それぞれの因果関係をロジカルに説明することで価値創造の基本的な流れをストーリー化することができます。
例えば、企業内にオープンで創造性発揮を促す職場環境が存在し、研究者や技術者が生き生きと働いていること(学習と成長視点のCSF)が、イノベーティブな技術・ノウハウの開発と重要・中核特許の取得(業務プロセス視点のCSF)に繋がり、それが他社の参入障壁となり、価格決定力(顧客視点のCSF)が生まれ、利益率の向上(財務視点のCSF)に繋がる*2。
革新的なビジネスモデルで企業価値の向上を
上記の2つの事例では、ビジネスモデルのロジカルな流れを定性的に説明するだけでしたが、それに加え、定量的な指標(KPI)により、知財・無形資産の投資・活用戦略の進捗具合を客観的に把握できるようにすることも投資家等との対話では重要になります。
また、戦略を策定・実行する全社横断的な体制及びガバナンスとして、社内の幅広い部署(経営企画、サステナビリティ、知財、広報・IR、研究開発、事業、マーケティング、営業等)が連携できる体制作り及び取締役会の監督機能の強化(知財・無形資産の投資・活用に深い知見を持つ取締役の選任等)が求められます。
日本企業が政府のガイドライン等も参考にしながら、自社の強みとなる知財・無形資産を活用した高付加価値で革新的なビジネスモデルを構築・展開し、投資家等との対話を通して、より強靭なビジネスモデルに練り上げ、持続的な成長と中長期の企業価値向上に取り組んでいくことが期待されます。
注)
*1 バランスト・スコアカード(BSC)は、ハーバード・ビジネス・スクール教授のロバート・S・キャプラン氏とコ ンサルタント会社社⻑のデビッド・ノートン氏が1992年に提唱した業績評価システムであり、非財務情報を見える化する取組と捉えることができる。(出典:知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン)*2 東京大学 未来ビジョン研究センターの研究レポート「コーポレートガバナンス・コード改訂に伴う知的財産に関するKPI等の設定(中間報告)」を参考