「日本企業2社を含む世界の主要25社による気候変動対策や温室効果ガスの削減目標は実態に欠け、消費者や行政を惑わすことになりかねない」
「グローバル企業25社の温室効果ガス削減への取り組みは実際には『2050年にゼロ』にはならず、現状比で平均40%程度しか削減できない」
「グリーンウォッシュ」「抜け穴くぐり」「都合の悪いデータを除外」ーー。こんな厳しい内容の報告書を欧州のNGOが最近発表し、大きな話題になっています。(オルタナ編集長・森 摂)
調査対象はアマゾン、アップル、BMW、カルフール、グーグル、イケア、ネスレ、ユニリーバなど25社で、日本の2社も含みます。(オルタナ・オンライン「世界主要25社の脱炭素目標は怪しいと欧NGO」)
この報告書「企業の気候変動責任モニター2022」は、欧州のNGO「ニュー・クライメート・インスティテュート」(NCI)と「カーボン・マーケット・ウォッチ」(CMW)が執筆しました。
「両者とも極めてしっかりした組織で、特にNCIはクライメート・アクション・トラッカー(CAT)という、世界で使われている温室効果ガス削減目標の評価などもする研究者集団です」
気候変動問題における日本有数の専門家である一般社団法人クライメート・インテグレートの平田仁子代表理事はこう証言します。
平田氏によると、「日本が1.5度目標と整合させるためには、『2030年に62%削減が必要』というシナリオを示したのも、CATでした」。
この報告書については、英ガーディアン紙 (https://bit.ly/3GTnmjv)や、米CNBC (https://cnb.cx/3gJ0tUV) などの大手メディアも報道し始めました。
さて、私たちは、この報告書をどう捉えれば良いのでしょうか。これまで気候変動対策のトップランナーとされていた企業が、いきなり「ウォッシュ」の汚名を着せられたのですから、見過ごせません。
■企業側も、報告書に疑義があるなら反論を
報告書「企業の気候変動責任モニター2022」調査対象の25社は、自社に対しての記述に疑義があるのであれば、堂々と反論すべきです。それがステークホルダーや社会への説明責任を果たすことにつながります。
■「バックキャスティングではなかったのか」
私には、一つ大きな疑問があります。それは「バックキャスティングではなかったのか」という点です。
「バックキャスティング」とは、気候変動対策や社会課題の解決でよく使う手法です。現状からの積み上げではなく、将来のある時点での目標を掲げ、それを達成するためのロードマップを未来起点で描く手法です。
温室効果ガスの削減においては、世界は「2050年カーボンゼロ」に向けて舵を切り、昨年のCOP26(英グラスゴー)でも、「産業革命前に比べて地球の平均気温の上昇幅を1.5度未満に抑える」ことで各国が一致しました。
バックキャスティングは「目標を設定すること」が重要で、ロードマップにおいて軌道修正や改善をしていけば良かったはずです。この点においては、報告書で断罪するのはタイミングが早すぎるとも感じました。
また、トップランナー企業が批判されることで、「後発の企業が二の足を踏む」事態も懸念します。脱炭素を掲げ、そこに積極的に向かう企業が必要以上の批判を受けることには抵抗感があります。
■「ネットゼロはゼロではない」は正しい
ただ、報告書の「ネットゼロはゼロではない」「クレジットの手法が不透明」という主張は、正鵠を得ています。「ネットゼロ」は、「自社事業による排出を完全にゼロにしなくても、クレジットを買えば実質ゼロになる」という考え方です。そこに大きな「ごまかし」や「不正」が入る余地があります。
カーボンクレジットについては、「張りぼての脱炭素取引 CO2削減量クレジット過大発行」(2021年12月13日付け日本経済新聞)という報道もありました。
「森林保護に由来する世界最大級の事業を調べると、削減効果の最大3倍の規模で発行している疑いが浮上した。積極的な温暖化対策をアピールしたい企業が購入している。根拠不透明なクレジットが出回れば、実効性を欠く『カーボンゼロ』が氾濫しかねない」(同紙)
おそらく、グローバル企業は「各国の政策や具体的なアプローチが統一されていない」という不満を持っているでしょう。特に「スコープ3」の問題と、「カーボンクレジット」の領域で顕著です。
それでも、一般社団法人クライメート・インテグレート東京・港)」の平田仁子代表理事は、今回の問題について下記の通り、指摘しました。
「脱炭素への機運が高まるなか、企業の取り組みがどこまで本気なのか見えない部分がありました。目標と実態にかなりの乖離があることが明らかになったことは、非常に重要な指摘です」
「裏付けのない取り組みは、目標自体を無意味にしてしいます。企業には、目標とのギャップを埋めていく努力がより求められます」
■メディアとしての検証能力も問われる
メディアにも大きな責任があります。企業の脱炭素目標を深く検証することなく、記事として掲載することも多いのです。改めて、メディアとしての検証能力を高め、NGO/NPOや研究機関とも連携し、科学的な知見に基づいた報道を目指していくべきだと考えます。