【連載】:ESGアクティビズム最前線(4)

近年、世界共通で企業の職場におけるダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(多様性、公平性&包摂性、DEI)の重要性が謳われている。「人種のるつぼ」として知られる米国ではESG投資を重んずる投資家が性別・人種間における従業員給与の格差是正などを企業に要求する事例が目立つようになってきた。(松木 耕)

職場の多様性イメージ @Rodnae Productions,

「株主アクティビズム」の分野でも大きな事例が誕生した。米・マイクロソフトが2021年11月末に開いた年次株主総会で、セクシュアル・ハラスメント対策に関する報告書の発行を求める株主提案が78%の株主の賛同を集めて可決されたのだ。

近年明るみに出た創業者ビル・ゲイツ氏が関わる過去の女性問題も影響したといい、提案主の資産運用会社・アルジュナ・キャピタルは、ゲイツ氏含む役員が関わる事案は詳細も公表することを企業側に求めていた。

投資家の目も厳しくなるなか「職場のDEI深化のためにまず欠かせないのは取締役会の多様性確保だ」(米・資産運用会社幹部)との声も聞かれる。しかし、多くの日本企業にとってその道は険しい。内閣府男女共同参画局によると、東証1部上場企業の約1/3は女性役員不在という(2021年7月時点)。人口減少に直面することが予想される日本では、職場における女性のプレゼンス向上はどの企業にとっても肝心なはずだが、日本の上場企業の役員に占める女性の割合(10.7%)は米国(28.2%)や英国(34.7%)企業と比べ大きく見劣りする(OECD, 2020年)。

日本企業のコーポレート・ガバナンス改善や女性役員の活躍の事情に詳しい、米・サード・アロー・ ストラテジーズ創設者のトレイシー・ゴーパル氏は日本企業における「女性活躍」の遅れを「とくに驚くべきことではない」とみる。「そもそも日本にはクオータ制のような仕組みがなく、コーポレート・ガバナンスコードでも取締役会に最低1人の女性役員を据えることを推奨されているわけではありませんから。投資家が日本企業に高い水準を求めるようになったのはごく最近のことなのです」(ゴーパル氏)。

しかし、今後は女性役員不在の上場企業には投資家からより厳しい目が向けられることが予想される。機関投資家等に株主総会での投票助言を行う大手議決権行使会社2社(ISS・グラスルイス)も具体的な動きを見せている。

ISSは2023年2月以降に開催される株主総会で女性取締役が不在の企業の経営トップの選任議案に反対を推奨する意向を表明した。グラスルイスは以前から東証1部・2部の上場企業で女性取締役不在の場合、会長・社長等の選任に反対を推奨していたが、2022年4月に予定する市場再編後は最上位区分となるプライム市場に所属する企業に取締役会に女性を10%以上含めることなどを求めるという。

企業が戦略的に取締役会の多様性確保を進めるうえで、その恩恵を具体的に理解することも肝心だ。ゴーパル氏は「例えば、起業した経験や外資系企業での勤務経験を持つ女性たちの持つ多様性にまつわる認識は、30年間日本企業で働いた男性が持っているものとは違います」と指摘したうえで、「認知の多様性」というキーワードを挙げている。取締役会の場で予め多様な人材・視点を確保して監視機能を高めることが、企業にとって盲点となりうるリスクを事前に防ぐことにも繋がるという。

企業をとりまくリスクの複雑性が劇的に向上するいっぽう、人的資本を中心に据えた企業経営に関心を示す投資家も増えている。投資家との対話を積極的に活かしながら、戦略的なDEIの実践を遂行し、自社の柔軟性を高めるための前向きな姿勢こそが企業の社会的価値向上のカギを握る。