ドイツの再エネシフト、市民の「環境意識」が後押し

オルタナは月1回、サステナビリティのホットトピックをゲストと話し合うSBL(サステナブル・ビジネス・リーグ)セミナーを開いている。20回目となる4月26日は、ドイツ在住の環境ジャーナリスト・松田雅央(まさひろ)さんを招き、ウクライナ戦争がドイツのエネルギー政策に与える影響や、再エネシフトの最前線について伺った。(オルタナ副編集長・長濱慎)

「ドイツには約800もの地域密着型の配電事業者(シュタットベルケ)がある」と、解説する松田雅央さん

松田さんは1995年にドイツに渡り、南西部の都市カールスルーエを拠点にヨーロッパのエネルギー環境政策や都市計画について情報を発信。時差が約7時間の現地からオンラインで、1)ウクライナ戦争がドイツに与えた影響、2)脱原発、3)再エネシフト、4)エネルギー政策の背景について解説した。

1)ウクライナ戦争でも脱石炭・脱原発は変わらず

ドイツは天然ガスの55%をロシアに依存(2020年)しており、戦争によって供給が絶たれたことで石炭火力の発電量が増加。22年末に全基停止予定の原子力発電の運転を1〜2年延長する可能性も出てきた。

しかし、これはあくまでも一時的なもので、脱石炭(2038年まで)と脱原発という基本方針は変わらない。とくに連立与党の「緑の党」は、原発の運転期間延長に否定的である。

2)脱原発・メルケル前首相は「原発推進派」だった

日本ではメルケル前首相が脱原発のリーダーのように語られ「2011年の東日本大震災・東京電力福島第一発電事故をきっかけに全廃に踏み切った」というのが定説になっているが、事実は少し異なる。

ドイツでは1970年代から脱原発運動が始まり、その機運は86年のチェルノブイリ事故でさらに高まっていた。最初に原発の全廃を決めたのはシュレーダー政権(2002年)で、メルケルは推進派だった。

メルケルは2010年、国民の反対を押し切って平均12年の原発の運転延長を決めた。しかし翌年に起きた福島第一原発事故を受け、急きょ原発廃止に方針を転換した。「この決断力の速さとリーダーシップは見習うべき」と、松田さんは語る。

3)再エネは「脱原発、省エネ」とセットの政策

ドイツは再エネシフトを脱原発とセットで進めている。2020年の再エネ発電比率は約45%で、30年には65%を目指す。これにエネルギー効率化(省エネ)を組み合わせた、総合的なエネルギー政策がドイツの特徴である。

再エネの電力で水素を作り、それを原料にメタノールなどの燃料を合成する「Power-to-X」と呼ばれる取り組みも始まっている。日本では「再エネ=電気」というイメージが一般的だが、ドイツでは熱分野でも再エネの活用を進めようとしている。

4)環境大国・ドイツの根底にある市民の「環境意識」

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S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #自然エネルギー

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