産後ケアNPOからひとり親支援へ

離婚の増加で日本の母子家庭は123万2,000世帯(父子家庭は18万7,000世帯)にのぼります。シングルマザーの実相は見えにくいですが、困難を抱えて孤立しているのは間違いありません。

東大大学院で学んだ運動生理学の知識を生かしてマドレボニータで20年以上にわたって延べ10万人の女性の産後ケアに当たってきた吉岡マコさんがNPO法人シングルマザーズシスターフッドを設立、ユニークな手法でひとり親支援に乗り出しています。

吉岡さん自身、シングルマザーの経験があり、新たな活動に違和感はなかったようですが、すぐに壁にぶつかります。

マドレボニータ時代は、夫婦そろった人だけではなく、多胎児や障害児、低体重出生児のママも支援してきましたが、SNSに写真をアップするなど明るく楽しくみんなで励まし合ってやってきました。ところが、シングルマザーはやや勝手が違いました。

DVから逃げており集合写真に顔を出したくない、本名を名乗りたくない、自信がないのでパソコン教室は無理、という人が多いからだ。家庭に引きこもって孤立し、仲間同士で助け合うこともありません。一方で、時折ニュースで流れる本人や男性パートナーによる幼児虐待などネガティブなイメージばかりが肥大してしまい、社会の偏見が一層強まるといった悪循環に陥っています。

働いているのに貧しい日本のシングルマザー

日本の子どもの貧困率は13.5%ですが、ひとり親世帯に限ると48.1%に跳ね上がります。半数の子どもが貧困状態にある深刻な状況ですが、ここに興味深いOECDの統計があります。

日本のシングルマザーの就業率は約80%で、先進国ではトップ。英米仏独伊は60-70%前後です。こうした就業しているシンフルマザー家庭の貧困率は当然ながらOECD平均では20%程度に落ちるのですが、驚いたことに日本だけ約55%と異常に高くなっているのです。なぜでしょうか?厚労省の調査では就業しているシングルマザーの平均年収は348万円と、全世帯平均所得545万4,000円を大幅に下回っています。非正規雇用が48.4%と半数近いためです。

子どもが病気になると保育園から呼び出しもありフルタイムで責任の重い仕事はしたくない、パートでいいからなるべく責任を軽くしてもらい早く帰宅して子育てに時間を使いたい、とにかく大変な思いはしたくない、という発想のシングルマザーが多いと推測されます。

考えてみれば、厚労省のひとり親支援策として、生活保護のほか、母子手当(児童扶養手当)の支給など経済的支援や保育所への優先入所など子育て・生活支援の公的制度があるほか、民間でも子ども食堂やフードバンク、無料塾などの支援も増えています。

こうした中で、シングルマザーは苦しいながらなんとか生活することができるようになっています。

しかし、こうした足りない部分を補う支援で十分なのでしょうか。吉岡さんは「そうした支援は重要。ただ、シングルマザーの抱える困難は貧困だけではない。離別による自信喪失、失われた自尊心、元配偶者からのいやがらせ、正社員で責任ある地位についていてもDVで家を追い出され心がずたずたになっている人もいる。きわめて複雑なのです。こうした点に目を向けた支援でないと、今の困窮状態から抜け出せません」と問題の本質を指摘しています。

このためNPO法人シングルマザーズシスターフッドでは、シングルマザーを潜在的な力を持った存在としてリスペクトし希望を持って自立への道を歩むことができるようエンパワメントを図っています。

この伴走支援には次のようなスキルアップの4段階ステップ=上図参照=があります。

  • セルフケアー活動の原点として、まず自分を大切にし、心身をセルケア
  • 自己探求―つらい過去(離婚、DVなど)の棚卸しで自分自身に向き合う自己治癒
  • 仲間との切磋琢磨―シングルマザー同士、励まし合える仲間とつながって孤立を防止
  • 自己鍛錬―未来をよくするための学びの機会を得て自己鍛錬

未来を切り拓くオンライン講座

ステップに応じて豊富なオンライン講座が用意されています。時には暴力を振るうなど難しい年代の子どもを理解するための「思春期講座」、周囲の人との対人関係を考える「コミュニケーション講座」、家計の収支を管理するための「マネーリテラシー講座」、マイクロソフトと連携した「ひとり親TECHエンパワメントプログラム」といった具合です。

シングルマザーは横のつながりがなく当初は口コミではなかなか広がりませんでしたが、ニーズは高く、他のシングルマザー支援団体のメルマガで紹介してもらったところ、参加者が急増したそうです。

講座での学びを通して過去のトラウマを癒すとともに負の感情をコントロールし、自らの未来を切り拓いていく自信を身に着けていきます。

こうした真に必要な支援がこれまでなかったこと、またオンラインで全国から参加が可能とあって孤立しがちなシングルマザーには好評です。自身の心と身体のストレッチで「全身にエネルギーが巡ってくる」という声が少なくありません。ひとりで頑張らなくてはと思うあまり、人と話す楽しさ、大切さを忘れていたことに気づく人も多く、「孤独でしたが、講座に参加すると一人ではないと実感する。顔見知りも増え、仕事は大変だけど頑張ったら皆に会える。もう少し生きて行こうと前向きになれた。近所の人よりおしゃべりしているかも」といった声が寄せられています。

寄付募り、支援される側から支援する側へ

このNPOが目指しているのは、学ぶだけではなく、シングルマザーが経済基盤の確立を図り、社会に貢献することです。つまり、これまで施しを受ける一方だった立場から、同じような苦境に立つ次世代のシングルマザーを応援するために寄付を募るのです。これは講座の卒業生の有志が行っている啓発キャンペーンで、昨年の母の日キャンペーンと年末の寄付月間キャンペーンで合計100万円以上の寄付を集めました。

ことしの母の日キャンペーンでは、「ひとり親けんこう白書」を作成してシングルマザーの心身の健康を応援するため現在クラウドファンディングを行っています。6月14日までが期限で目標100万円を目指しています。

キャンペーンに向け、シングルマザーが多様な体験をもとに手記を公表しており、ひとり親家庭の画一化されたイメージとは違うリアルで重い実態とそれを乗り越えた姿を描き出しています。これを読み、社会の理解と寛容が進むことを期待したいところです。