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本稿では、国内のSDGs債に関して「直接市場の私募社債では何ができるか」について考察します。公募や銀行引受の形態で拡大しているSDGs債ですが、未上場企業を含む社債発行検討中の企業でも「事業構造の転換」「人材・ブランド戦略」「CSRに関する情報開示」などの観点で頻繁に話題となるテーマであり、活用に向けて可能性が期待されます。(小村 和輝)

2021年のSDGs債の発行件数は190件(発行額2兆9270億円)に上り、急速に拡大する

■SDGsの取り組みの遅れは事業継続のリスクに

SDGsへの取組みの遅れは、非上場企業や中小企業においても、事業継続のリスクになります。ステークホルダーの動きに基づく要因を3例挙げます。

1)取引先選別・与信評価基準の変化

「CSR調達」は、取引先を選ぶ際の基準として、価格や機能だけでなくCSRに関する情報開示も評価に含める調達方法を指します。

具体例として、大企業におけるサプライチェーンマネジメントや、金融機関における与信評価の基準にCSRへの取組み度合いが組み込まれつつあることなどが挙げられます。

2) 人材市場における関心の高まり

ミレニアル世代やZ世代といった若年層では特にSDGsへの関心が高く、取組みが採用における会社のアピールポイントとなり、既存社員のモチベーション向上にも繋がります。

特に採用ブランディングに直結するテーマとしては、以下が挙げられます。

▶目標(5) ジェンダー平等を実現しよう/目標(10) 人や国の不平等をなくそう⇒D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進
▶目標(8) 働きがいも経済成長も⇒ 能力開発機会や安心・安全な労働環境
▶目標(3) すべての人に健康と福祉を⇒ 心身両面の健康経営

3) 社会課題の解決を目指す新市場の拡大

SDGsに包含される社会課題は、持続可能な経営を目指す重要な契機です。社会課題の解決に目を向けた「ソーシャルビジネス化」による新規事業も盛んです。

特に中堅・中小企業では、スタートアップとのオープンイノベーション・資本提携などを通じ、外部の人的資源や知見の活用、社内の人材育成・非連続成長の事業領域確保につなげる例も見られます。

地方においては、「地方創生SDGs」を柱に自治体を中心とした官民連携が進んでおり、「SDGs未来都市」や「自治体SDGsモデル事業」など、ジョイントベンチャー設立や条例制定に至るケースもあります。

■わが国の取組みと「寄付型」の課題

公募市場では、2021年のSDGs債の発行件数は190件(発行額2兆9270億円)に上り、急速に拡大しています。ただし、追加のレポーティングや外部機関評価のコストを主に発行体が負担しているなど、課題も残されています。

銀行業界においても、いち早い取組みが多く見られ、一部SDGsをテーマにしたファンド設立によるリスクマネー供給やビジネスマッチングなども行われています。

一方で、多くは発行額の一定割合を指定団体等に寄付・寄贈する、いわゆる「寄付型」の私募債発行の形態を取っています。

これらは、寄付・寄贈を通じてSDGsに貢献することを主眼としており、必ずしも資金使途自体はSDGsと関連しておりません。

■「内容型」SDGs私募債は直接金融の得意分野

一方で、持続可能な経営を目指した各企業の事業構造転換等のための資金供給となる、いわゆる「内容型」のSDGs私募債は未だ「発展途上」ですが、今後は大きな可能性を秘めています。

ESG投資は従来、金融・資本市場関係者による「ネガティブ・スクリーニング」の位置付けで用いられてきました。しかし、SDGsという共通言語により、企業の事業活動全般に考え方が取り入れられ始めた今こそ、直接金融・債券発行を活用する意義があると考えます。

債券は投資家にとって資金が直接発行企業に渡る投資であり、各債券の設計により、資金調達とその使途・効果の対応を明示しやすいという利点があります。

直接金融なら、新たな取組みを評価し柔軟なリスクマネー供給が行われやすいことから、公募債の発行が難しい非上場企業や中小企業にも活用余地があります。

直接金融による「内容型」SDGs私募社債による資金調達が適していると考えられる事例には以下が挙げられます。

– 労働環境改善のための労務・進捗管理システム導入や福利厚生への投資
– 脱石油系新素材や再生可能エネルギーへの転換・研究開発費
– スタートアップや同地域企業とのJV・ブランド立ち上げ等に関連する資金
– 従来取り残されていた方の就労を促進する環境整備や新規事業資金
– 健康や環境に配慮した新商品・サービスの認知を広めるための広告宣伝費やその他運転資金

内容型SDGs私募債を一例として、SDGsへの取組みという不可逆的に目指すべきプロジェクトに対し、一人の経営者として、また地方出身者という立場からも、今後も出来ることを自問し続けていきたいと思います。