■記事のポイント
①日本の環境団体が、木質ペレット輸入先の米国南部の状況を調査した
②ペレット工場からの騒音や粉塵で、不眠や喘息を訴える住人が相次いでいる
③住人は貧困層や有色人種で、日本のペレット調達が社会的弱者への人権侵害に
バイオマス発電の燃料である木質ペレットの輸入量が急増している。「地球・人間環境フォーラム」など3団体が、日本がペレットを輸入する米国南部の生産現場を訪問。このほど報告会を開いた。木質ペレット工場の多くは貧困率の高い地域にあり、粉塵や騒音などで近隣住民に深刻な健康被害をもたらしているという。(編集委員・栗岡理子)
■米国南東部からの木質ペレットが急増
再生可能エネルギーのひとつと言われてきた木質バイオマス発電。一方で森林減少・劣化や気候変動を悪化させることなどが指摘されている。
例えば、ペレット生産のために樹木を伐採した森林では、植生が回復しないケースもある。また、ペレットの生産・加工に伴って発生するCO2に加え、輸入ペレットを海外から船で運べば大量のCO2が発生する。木質バイオマス発電の温室効果ガス排出量は、石炭火力発電を上回るという見方もある。
米国で木質ペレット向けに伐採される森林の多くは南東部にあり、木質ペレット工場も南東部に集中する。
世界最大級の木質ペレット生産企業で、日本の複数の大手企業と長期供給契約を締結するEnviva Partners, LP社(米国メリーランド州、以下「エンビバ社」)も、東部のバージニア州から南部のミシシッピ州にかけ6州の10カ所にペレット工場を所有。年間620万トンのペレット製造能力を有している。
同社は2027年までに米国内でさらに6カ所の工場を新設し、生産量を現行比約2倍の1220万トンに引き上げる計画だ。
■ペレット生産で喘息の悪化や呼吸困難も
その米国南東部で、ペレット生産に伴う健康被害を訴える声が広がってきた。
現地を訪れた「地球・人間環境フォーラム」企画調査部の飯沼佐代子さんによると、ペレット工場の操業地域では「喘息が悪化した」「騒音で眠れない」「屋外でバーベキューができなくなった」といった声が上がり、中には呼吸困難を発症するケースまで報告されているという。
「ペレット工場周辺には黄色っぽい粉塵が舞い、長い丸太を積んだトラックが轟音をたてておよそ5分間隔で走っていました」(飯沼さん)
以前から操業しているノースカロライナ州では、住民による反対運動も起きている。だが長年反対しても改善されないことから諦めてしまう人も多い。エンビバ社などは、大気汚染に関する基準違反で当局に罰金を支払っているが、地域コミュニティへの対策はほとんどとられていないそうだ。
「輸入木質ペレットは、生産現場で住民の健康を害している恐れがありますが、現地での実態調査などは行われていません。私たちが見た7つのペレット工場のほとんどは、職業、教育、医療などへのアクセスが非常に限られています」(飯沼さん)
■全米有色人種地位向上協会も反対の声明
飯沼さんは、こうも指摘する。「ペレット工場は、高齢化も進んだ社会的に弱いコミュニティを狙うようにして作られていました。そうした場所では大企業に物申すことが難しく、苦情を伝えても改善されなければ住民はあきらめるしかないのです」
米国の木質ペレット工場の多くは、貧困率が高く黒人の多い地域に集中し、コミュニティの人々に苦痛を与えている。そのため、全米有色人種地位向上協会(NAACP)は、木質ペレットの製造および木質バイオエネルギーの利用に反対する声明を発表した。
輸入木質ペレットを用いるバイオマス発電は、日本ではFIT(固定価格買取制度)の対象だ。再生可能エネルギーというエコなエネルギーであるかのように、私たちの支払う電気代から補助されている。