記事のポイント
- 日本政府はアジア各国で水素やアンモニアの混焼を推進する
- だが、化石燃料と混焼させることから、CO2削減効果には疑問が残る
- インドネシアやフィリピンのNGOは「化石燃料産業の延命に過ぎない」と批判した
FoEJapanなど環境NGO5団体は2月3日、院内集会「『GX戦略』はアジアの脱炭素化に貢献するのか」を開いた。日本政府は「アジア・ゼロエミッション共同体」構想を掲げ、アジア各国で水素やアンモニアの混焼を推進しようとしている。インドネシアやフィリピンの環境NGOは「『排出対策』という名目で、化石燃料産業の延命をしているに過ぎない」と批判した。(オルタナ副編集長=吉田広子)
「混焼」とは、複数の燃料を混ぜて燃焼することだ。
水素やアンモニアは燃焼時にCO2を排出しないため、日本政府は「非化石エネルギー源」と位置付けている。石炭火力発電では石炭にアンモニアを混ぜ、ガス火力発電では天然ガスに水素を混ぜて燃焼し、発電することで、CO2排出量を削減できるとしている。
しかし、水素・アンモニアのほとんどは化石燃料由来だ。サウジアラビアなど海外で製造されたものを輸送する計画で、CO2削減に貢献するとは言い難い。
日本政府は国内だけではなく、アジアでも「水素混焼」「アンモニア混焼」を推進する方針だ。2022年1月に「アジア・ゼロエミッション共同体」構想を掲げ、アジア諸国で水素・アンモニア混焼、CCS(CO2の回収・貯留)の普及を進める。
■アジア諸国で石炭とLNGを推進
インドネシアは「2060年までにカーボンニュートラル」の目標を掲げる。日本は、インドネシアの再生可能エネルギーへの移行を支援する「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」の一員だ。
国際協力機構(JICA)が発表したロードマップでは、アンモニア、水素、CCS付きLNG(液化天然ガス)を主要燃料に位置づけ、短期的には既存石炭火力発電所でのアンモニアやバイオマス混焼の実施を優先的に支援するとしている。2051年以降は、水素火力を提案する。
三菱重工は、インドネシア各地の発電所で、水素やアンモニア、バイオマスとの混焼の事業化調査を進めている。
FoEインドネシアのドゥウィ・サウンさんは、「混焼技術を推進することで、石炭が使われ続けてしまう。決して脱炭素に貢献するものではない。誤った対策に対する資金提供を止めてほしい」と訴えた。
■フィリピンのターミナル建設現場で道路が崩落
フィリピンでは、新規の化石燃料ガス火力発電所やLNGターミナルの開発が進む。
国際協力銀行(JBIC)と大阪ガスは、フィリピンの建設大手・AG&Pに共同出資し、フィリピン・イリハンLNG輸入ターミナル事業(ルソン島バタンガス市)を進める。
工事は、生物多様性が豊かなヴェルデ島海峡に面した地域で行われている。海洋環境に悪影響を及ぼすだけではなく、地域の小規模漁業や観光業などへの影響も懸念されている。2022年11月下旬には、杜撰な工事が原因で国道が崩落するという事故が起こった。しかし、地域住民への説明は一切ないという。
こうした事態を受けて、フィリピン当局は開発行為の「停止命令」を発出した。だが、工事は依然として続いている。
フィリピンのシンクタンク・CEEDのジェリー・アランセスさんによると、2022年にJBICと2回面談したものの、進展がないという。「『AG&P社に伝える』とは言われているが、その後の報告はなかった」と説明した。