記事のポイント
- ライオンはパーパス(存在意義)に加えてビリーフスを制定した
- ビリーフスは、パーパスを実践するために社員が携えるべき「信念」を指す
- ビリーフスを共有するために、社内への情報発信や議論を重ねる
ライオンはパーパス(存在意義)を実践するための拠りどころとして、ビリーフス(信念)を策定している。その信念を共有するために、社内への情報発信やワークショップを重ねる。その意図を掬川正純社長に聞いた。(聞き手・森 摂=オルタナ編集長、萩原 哲郎=オルタナ編集部)

1959年神奈川県生まれ。1984年東京大学農学部卒。同年ライオ
ン入社。執行役員ヘルス&ホームケア事業本部長、代表取締役専
務執行役員などを経て、2019年1月代表取締役社長、社長執行役
員、最高執行責任者に就任。2022年3月から現職。
■パーパス浸透へ対話を重ねる
――創業から受け継がれている「愛の精神の実践」はどのように実践してきましたか。
ライオンの創業者である小林富次郎はキリスト教徒でもあり、以前は社内で賛美歌を歌っていました。キリスト教精神で、「事業を通じて社会のお役に立つ」という創業の精神からスタートした会社です。
創業間もない1900(明治33)年には、「慈善券」が付いた袋入り歯磨き粉を販売しました。空袋を集めて慈善団体に寄付すると、当社で1枚1厘(円の100分の1)で換金できる仕組みです。
――今でいう「コーズマーケティング」のような形ですね。パーパスも2018年と早めに制定しましたね。
ライオンのパーパスは「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」。創業からこれまでの事業を振り返ったうえで、私たちは事業を通じて、どう社会に貢献できるのかを考えました。
――「会社の寿命は30年」という言い方もありますが、1891年の創業以来、約130年間、会社が存続できたのはなぜだと考えますか。
社員が一貫した理念を持ち続けてきたからです。社員だけではなく、同じような考えを持って応援してくれるサプライヤーや取引先などと良い関係を築けたからと思っています。
――社員に対して、企業理念への理解をどのように浸透・促進されていますか。
ポイントはビリーフスです。ビリーフスはパーパスを実践するための「日々の考え方・行動・判断の拠りどころ」です。このビリーフスのもと、暮らしの中に新たな課題を発見し、高いプロ意識を持って仕事に取り組んでいます。
これを単なるお題目にしないためにも、全社員の共感を獲得するための活動も行っています。
例えば、役員がパーパスやビリーフスへのお互いの考え方を対話する機会も重ねています。1時間半ほどの対話を動画として撮影し、社員が視聴できるようにしました。
役員がパーパスやビリーフスをどのように捉えているのか。それを社員に伝わる形にしました。各現場でも、パーパスを実践していくために何を大切にすればいいか、ビリーフスはどう活用すればいいのかといったワークショップを積極的に開催しています。
またオンライン上で「キクカワチャンネル」という社員との対話の機会をつくりました。新型コロナ感染症が流行してから、社員と対面で対話する機会が少なくなっていました。それぞれの回でテーマを決めて対話を重ねました。
テーマは、「競合他社の強み」「ダイバーシティ」などさまざまです。1回90分の時間のなかで、冒頭、私が自分の考えを15分話してフリーディスカッションを行います。パーパスやビリーフスをテーマにして、いろいろな社員と意見交換をしています。
即効性のある方法はないと考えています。繰り返し、みんなのなかで話題にして一緒に考えていく機会をつくっていく必要があると考えています。
――これからの中長期戦略の軸はどこに置きますか。