記事のポイント
- 企業のSDGs関連の情報は増え、一般層にも広く認知されるようになった
- しかし、関心はあるが、行動できていない層が以前として多数を占める
- 企業はSDGsを単なるPR活動として活用するのではなく本業と統合すべきだ
SDGsは、メディアでの露出や企業での取り組みもここ数年で急激に増加し、一般層にも広く認知されるようになった。一方で2030年のゴール達成に向けては、まだまだ越えなくてはいけない壁が多くある。日本でSDGsが一過性の盛り上がりに終わってしまうのか、ゴール達成に向けて、「後半の7年半」で何ができるのか。(伊藤 恵・サステナビリティ・プランナー)

■SDGsの認知は8割以上に
昨年実施された生活者の意識調査(※1)によると、SDGsの認知率は86.0%。2018年と比較すると約6倍という急激な伸びを示している。
2018年の調査での認知はビジネス層を中心としたものだったが、一般層まで広く浸透してきたことがデータからも明らかになった。
2020年度から学習指導要領が刷新されていき、「持続可能な社会の創り手の育成」が明記され、教育の場でも理解が進んできたこと。
企業やメディアでの取り組みも盛んになってきたことで、広く浸透していったと推察される。調査データをみていくとSDGsの内容まで理解できている人の割合も大きく増加し、SDGsの取り組みをおこなっている企業への好意度や商品への購買意向も高まることが示唆された。
一方で今後に向けた課題を感じさせる調査データ(※2)もある。SDGsに関心がある人々をさらに細かく分類していくと、関心はあるけど実際に行動を起こせていない層がボリュームゾーンになっており全体の約半数を占めることが明らかになったのだ。
例を挙げると「環境にかかわる問題」についての興味・関心は7割以上だが、行動しているのは3割程度に留まった。
別の調査(※3)では、企業にSDGs活動を期待するものの、活動自体の内容が見えにくいという回答や、自身が購入する際の価格転換には消極的な傾向がみられた。
行動を起こす意欲はあっても情報が判りにくく機会を喪失してしまう、もしくは価格のハードルが高く購買のアクションに踏み切れないという壁があることが推察される。
■活動促進のカギはESG?
SDGsの認知は上昇したものの、行動が伴っていない現状からどう一歩進めていけばいいのか。
そのためには、企業のSDGsの取り組みが、抽象的であいまいな単なる企業PRに留まることなく、本業として取り入れ、ゴールに対してもっと具体的な動きをしていき、消費者や社会に提示していく必要がある。
その動きを促進させるカギになるのがESGだ。しかし、日本ではESGの一般的な認知度はまだまだ低く、あるアンケート(※4)では、7割以上の人がESGを知らないと回答している。
投資家はESG課題への取り組みで企業を評価し投資をおこなったり、対応を促したりしていくが、最終的な購買者である一般消費者もこのメカニズムを理解しなければ、企業利益に結びつかず、ESG投資でリターンを得られなくなる。
投資家以外の一般層のESGの認知の低さが、結果としてESG投資への資金拠出を消極的にさせ、企業のSDGs達成を遠ざけることにつながってしまうのだ。
ESG投資への理解が進むイギリスでは、企業年金基金の加入者に対して責任投資を呼びかける「Make My Money Matter」というキャンペーンが展開された。
ユニリーバオランダの年金基金では、加入者の意向を踏まえ、投資先企業を選定している。
このように一般層の声が投資活動に反映されるような動きが日本でも広まっていけば、企業のSDGs活動はより具体的なものに変わっていくだろう。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、今年「人権と地域社会」を新たに重大な ESG 課題として挙げた。
しかし、日本企業で人権課題に取り組む企業はまだ多くはない。これから日本でSDGsをより促進させるには、投資と企業活動の循環をより高めていくこと。そのためにまずは一般層でもESGの認知を高めていくことが第一歩になるのではないだろうか。
※1 電通マクロミルインサイト 第5回「SDGsに関する生活者調査」2022年
※2 メディア環境研究所 オリジナル定量調査大規模スクリーニング調査 2022年
※3 CCCマーケティング株式会社 「社会や自然環境に関するアンケート調査」2021年
※4 ニッセイ インターネットアンケート(環境問題について)2021年