ボルネオ環境保全、20年でも道半ば――サラヤ


生物多様性の危機に直面するボルネオ島で、傷ついた動植物の救出活動と、野生生物の生息域「緑の回廊」の実現を目指す取り組みが続いている。約20年にわたり、その活動を支えるのが、サラヤ(大阪市)だ。ボルネオでは、パーム油の原料となるアブラヤシのプランテーション(農園)開発によって、森林が破壊され、多くの動植物が絶滅の危機に瀕している。

ボルネオゾウを保護する「ボルネオ・エレファント・サンクチュアリ」

生息地を奪われたボルネオゾウを保護する施設「ボルネオ・エレファント・サンクチュアリ」の改装が進んでいる。それまで簡易的な施設だったが、ゾウが遊べる広場なども整備された。

現地を視察したサラヤ広報宣伝統括部の廣岡竜也統括部長は「複雑な胸中だ」と吐露する。

「保護が必要なゾウがいるから、この施設が存在している。本来であれば、施設は無い方が望ましい。2014年に一時的な保護施設として建設したものの、いまだに保護が必要なゾウが見つかるだけでなく、施設で人慣れしたゾウは、野生への復帰も難しくなってしまう。さらに返すべき森がなくなっているのも問題だ」(廣岡部長)

サラヤがボルネオ環境保全プロジェクトを開始したのは2004年。あるテレビ番組がきっかけだった。「ヤシノミ洗剤の原料生産のため、ボルネオでアブラヤシ農園が拡大し、野生生物が絶滅の危機に瀕している」として、サラヤに取材を申し込んできた。そこで、サラヤは実態を把握するために、現地に調査員を派遣した。

■ 「作る責任」、少量でも果たす
 
ボルネオは、マレーシアとインドネシア、ブルネイの3つの国に属する世界で3番目に大きい島だ。「生物多様性の宝庫」として知られる。ところが、世界で急速にパーム油需要が増え、大規模なプランテーション開発が進んだ。その結果、ボルネオを覆っていた熱帯雨林は大幅に減少し、多くの動植物が絶滅危機に瀕している。

生産されたパーム油の85%は「食用」で、チョコレートやスナック菓子、即席めんなどさまざまな食品に使用されている。残りの15%は「非食用」で、そのうち数%が石けんや洗剤に使われる。大手メーカーに比べればサラヤの使用量はごくわずかだ。

それでも「パーム油を使う企業として責任がある」という思いで、サラヤはボルネオの生態系や野生生物を守る活動を始めた。

「サラヤの主力ブランド『ヤシノミ洗剤シリーズ』は、石油系洗剤による水質汚染が社会問題となるなか、環境配慮の植物系洗剤の先駆けとして誕生した。1982年には食器用洗剤では日本初となる『詰め替えパック』を発売。創業以来、事業を通じた社会課題の解決を目指す当社が、ボルネオの環境保全に取り組むのは自然な流れだった」(廣岡部長)

サラヤは2005年、日本に籍を置く企業として初めてRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟。現在はパーム油を使用する家庭用製品のすべてで、RSPO認証を取得している。

■緑の回廊をつなぎ、野生生物を保護

環境に配慮して製造されたサラヤ製品

 ボルネオの環境保全活動の中心にあるのが、「緑の回廊」プロジェクトだ。マレーシア・サバ州の中心を流れるキナバタンガン川沿岸の開墾地を買い戻して森に再生し、分断された熱帯雨林を一つにすることで、野生生物の生息地を守る計画だ。2006年に、サラヤがサバ州野生生物局などと協力して立ち上げた環境NGO「ボルネオ保全トラスト」が現地で活動を行う。

「保護施設は、あくまで対症療法。これ以上、不幸な動物を増やさないためにも、「緑の回廊」の実現が重要だ」(廣岡部長)

ボルネオに広がるプランテーションによって森が断絶された

サラヤは、対象商品を購入すると、売上げの1%(メーカー出荷額)が「ボルネオ保全トラスト」に寄付される仕組みも整えた。対象は「ヤシノミ洗剤」シリーズをはじめとするパーム油利用製品だ。いわばユーザーも、この壮大な計画の実行者だ。

約20年にわたる長年の活動で獲得した土地については、サバ州政府へ提供し、野生動物保護区として再開発されないようにするなど、生息域の確保は進みつつある。

さらに、環境保全活動を続けるなかで、パーム油生産農家の意識も変わってきたという。

廣岡部長によると、「パーム油生産の約40%は、小規模農家が占めている。しかし大規模農園と違って、知識も資金も乏しいためにRSPOの認証スキームに入りにくい。その中で、小規模農家たちを連携し持続可能なパーム油生産に取り組む組織も出てきた。そういった組織と連携していきたい」と話す。その他にも、アブラヤシのみを育てる単一栽培ではなく、多様な植物を栽培して、生物多様性の保全と生計安定を図る活動もある。

プランテーションのなかに、「緑の回廊」をつくる農家も現れた。畑にゾウが入ると、それまで追い出していたところ、共存を目指して作業を中断するなど、意識が変わってきたという。
「サラヤにできることは、一緒に協力して行動していくこと。少しずつだが、確実に前進している」(廣岡部長)

■ 2030年までに生態系の回復を

生物多様性の損失は、気候変動問題に次ぐ、グローバルリスクになっている。1970年から約50年間で生物多様性が69%減少したほか、今後数十年間で100万種の生物が絶滅するおそれがある。

こうした危機的な状況を受けて、2022年12月、新たな国際目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が生物多様性条約第15回締約国会議で採択された。2030年までに自然の損失を止めて回復に転じる「ネイチャーポジティブ」を目指し、23の目標が策定された。

代表的な目標の一つに「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」がある。2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全しようというものだ。サラヤのボルネオ環境保全活動は、こうした目標にも貢献する。

廣岡部長は「活動を始めた当初は『偽善』とも揶揄されたが、20年近く続けてきたことで『信頼』に変わってきた。一方で、まだまだ道半ばという実感がある。これは1企業の問題ではなく、人類全体の問題だ。ユーザーや他社との連携を進めて、取り組みを強化していきたい」と語った。

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yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #生物多様性

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