参加者の8割は知的障がい者、「泳ぎたい」を叶える

記事のポイント


  1. 大阪の認定NPO法人プール・ボランティアは障がい児などの水泳を支援する
  2. 「学校ではほかの子たちよりも上手に」、子どもの自信にもつながっている
  3. プール専用の車いすや特別な浮き具も開発「すべての支援学校に導入したい」

グッドガバナンス認証団体をめぐる
 認定NPO法人 プール・ボランティア

認定NPO法人プール・ボランティア(大阪市)は、障がい児などの水泳を支援する。小学校入学前から通う子も多く、上手に泳げたことが自信を育む。プール専用の車いすなども開発・販売する。織田智子事務局長は「すべての支援学校に車いすなどが入れば、より安全にプールを楽しめる」と話した。(聞き手・村上佳央=日本非営利組織評価センター、萩原 哲郎=オルタナ編集部)

障がいのある子どもたちの水泳をサポート

■障がい者も安心してプールで泳げる環境に

―なぜプール・ボランティアを始めたのでしょうか。

もともと日本赤十字社で水難救助の方法を普及する水上安全法の指導ボランティアをしていました。水上安全法とは水の事故を防ぎ、事故が発生した場合には自らの安全を確保しながら他者の救助を行う方法です。

障がいがある人などが「プールに行きたくても行きづらい」ということを知り、これまでの知識や経験が生かせるのではないかと考えたのです。NPOは、1999年に設立しました。

―どのような人が通われていますか。

8割程度が知的障がい、発達障がいがある子どもたちです。2割は身体障がいがある人や認知症の高齢者、病後のリハビリとして通う人たちです。

医師からプールを勧められても、ためらってしまう人が多くいます。障がいのある子どもをスイミングスクールに連れて行っても、すんなりと受け入れてもらえるとも限りません。そういった悩みを抱えている家庭をサポートしています。

―「プール・ボランティア」はまだ聞きなれない言葉ですが、社会的な認知度は高まっていますか。

活動当初は私たちの思いが理解されないケースもありました。しかし、20年以上活動を続けてきたことで仲間も増えてきました。

たとえば、障がい者対応研修です。もともとプールの管理者向けの研修を行っていましたが、一般の方からも「研修を受けてプール・ボランティアを行いたい」という希望を多くいただきました。そこで2022年7月から誰でも参加できる体験型研修を始めました。

受講者の一人が22年12月に「プール・ボランティア和歌山」を設立しました。新潟や札幌でも団体の設立に向けて準備が進んでいます。

■ほめられて自信や新たな目標も

―プール・ボランティアでは市民プールで水泳指導をしています。一般の利用者が多く利用していて、活動への理解は不可欠です。

昔は一般の人は一般のプールで、障がい者は障がい者専用のプールで、というのが暗黙の了解としてありました。親切に声をかけてくれる人もいましたが、一般の人も障がいのある人も一緒のプールで、と認識が変化したのは最近のことです。

今でも心無いことを言われることもたまにありますが、多くの方には自然に受け入れられていると感じています。最近では「元気だね」とか「最近見なかったけど、どうしていたの」と声をかけていただく機会も増えてきています。

私たちの役割は、地域の障がい児を地域のプールやボランティアで支えていく環境をつくっていくことです。プールで地域の住民や高齢者とも仲良く楽しく泳げるようにしていきたいですね。

―プール・ボランティアを行うことで、障がいのある子どもたちの変化はどうですか。

重度身体障がい者用の浮き具「うきうきくん」を使って、水泳の上達を目指す

小学校入学前から通っていただいていると、小学校のプール授業のときも他の子どもたちと比べて上手に潜れたり、泳ぐことができたりすることがよくあります。その経験はその子どもにとっても自信につながります。

プールの一般のお客さんから子どもたちに「上手になったなね」と応援していただく機会も増えました。応援してもらっていると、子どもたちもモチベーションが上がり、水泳大会で自己ベストの記録を出したりしています。

なかには「パラリンピックに出たい」と目標を持つ子もいます。

21年に開かれた東京パラリンピックでは日本代表で重度の障がいのある選手は少なかったのですが、世界各国からはそういった選手が多く出場しました。日本では重度の障がいのある子どもが気軽にプールに行ける環境ではなかったり、指導できる人が少なかったりということが背景にあります。

プール・ボランティアの活動を広げていくことで、重度の障がいを持っていてもプールで楽しむことができ、目標が持てるようにしていきたいですね。

ボランティアも多様な人が集まっています。最高齢は83歳です。定年されてからずっとボランティアに携わってくれている人もいますし、逆に高校生のボランティアも増えています。一緒にプールに入って子どもたちに楽しく水泳を教えています。

■安全に泳げる車いすや浮き具を開発

―プール・ボランティアでは障がいのある方が水泳を楽しめるようにプール専用の車いすなども出されていますね。

「サンダーバード1号」はプールで使用することを前提にした仕様となっている

18年から、プールのなかにそのまま入れる車いすや、重度身体障がい者用の浮き具を販売しています。このような製品はこれまで外国製の製品しかありませんでした。しかし外国製の製品では非常に高価で、修理などが困難でした。

そこで自分たちで「より使いやすいものを作ろう」と考えました。そこで開発したのが、車いすの「サンダーバード1号」や浮き具の「うきうきくん」です。

「サンダーバード1号」は濡れた手で車イスを操作しても滑らないことなど、プールで使用することを前提とした仕様にしています。重度の身体障がいのある子どもが「うきうきくん」をつけることで、水中歩行ができるようにもなりました。

私たちはこれらの製品をすべての支援学校に備えられることを目指しています。障がい児にとって、更衣からプールの中に入るまでは、体への負担も危険も大きいです。「サンダーバード1号」や「うきうきくん」があることで、子どもたちも楽に安全にプールに入ることができます。

「ヘルプマークスイムキャップ」は聴覚障がい者や足が不自由な高齢者、知的障がいのある子どもたちなどに配布している。

「ヘルプマークスイムキャップ」の無償配布も行っています。これは白いスイムキャップにヘルプマークをプリントしたもので、プールを利用するときに配慮が必要であることを周りに知らせ、周囲から声をかけやすく、支援しやすくするものです。聴覚障がい者や足が不自由な高齢者、知的障がいのある子どもたちなどに無償で配布しています。

―22年1月には大阪府内で初めてグッドガバナンス認証を取得されました。

右からプール・ボランティアの岡崎寛理事長、織田智子事務局長

プール・ボランティアの活動を全国に広げていきたいと考えています。実際に東京や横浜でも「活動してほしい」との声を多く頂きます。グッドガバナンス認証を取得したことは、全国での団体に対する認知度向上や、信頼度の高まりにもつながっています。

行政や企業との連携を図っていく際にも、認証を得ていることでスムーズに進んでいくと期待しています。<PR>

「グッドガバナンス認証」とは

公益財団法人日本非営利組織評価センター(JCNE)が、第三者機関の立場からNPOなど非営利組織の信頼性を形に表した組織を評価し、認証している。「自立」と「自律」の力を備え「グッドなガバナンス」を維持しているNPO を認証し、信頼性を担保することで、NPO が幅広い支援を継続的に獲得できるよう手助けをする仕組みだ。詳しくはこちらへ

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萩原 哲郎(オルタナ編集部)

2014年から不動産業界専門新聞の記者職に従事。2022年オルタナ編集部に。

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キーワード: #NPO

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