真の「循環経済」はパッケージ戦略だけではない

記事のポイント


  1. 企業のサーキュラーエコノミー戦略ではパッケージに関するものが目立つ
  2. しかし化粧品業界では海外製品が9割を占め、国内視点だけでの実現は難しい
  3. サプライチェーンを含めた産業全体で取り組むことが重要だ

昨年の国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で生物多様性に関する新しい枠組みが採択されてから、グローバルでは様々な動きがあった。日本でもCOP会期中にグローバルの生物多様性への取り組みに1170億円を拠出すると発表し、2023年4月に国家戦略が公開したことは、世界でも話題となった。(日本サステナブル化粧品振興機構代表理事・長井美有紀)

パッケージのサーキュラーエコノミーが目立つが、それだけでは不十分だ

生物多様性に関する新しい取り組みとは、4つのゴールと23のターゲットが採択された。これを契機に国連が 「BeatPlasticPollution(プラスチック汚染を撲滅しよう)」 を掲げ、海洋プラスチック問題に対して具体的取り組みを進めようとしている。

いまさらと感じるかもしれないが、取り決め自体は、これまで明確にされたものはなく、「汚染」が気候変動や生物多様性に続く3大課題となって以降、2024年までに発表されるということが昨年から話題になっていた。

化粧品に限らず、日本国内の動向を見ていると、2019年ごろから先進企業においてはパッケージの取り組みが目立つ。確かに、海洋プラスチック問題は危機的状況。単に野生生物うんぬんではなく、気候変動や身近な産業開発、食の安全などへも悪影響が出る。

産業においても、化粧品や日用品などの加工産業では、取り組みやすい環境施策として、プラスチックソリューションが挙げられるのも事実だ。

どの時代においても、パッケージ戦略のみでは、真のサステナブルの達成にはならないとこれまでも言及してきたが、特に日本の化粧品業界では非常に達成が難しいとされていた「サーキュラーエコノミー」(循環経済)も、最近ではすっかりパッケージ(容器包装)戦略に取って代わられている。

サーキュラーエコノミーの考え方は、本来パッケージだけでない、産業全体における資源循環が重要である。現地で栽培・採取された原料を用いて、環境などに配慮しながら製造し、生活者が適切に使用し廃棄する。廃棄された資源をまた再利用して産業に利用する。

パッケージもここに入る。つまり、産業全体での資源循環である。日本では、原料含め製品自体を海外に頼ることが多く、化粧品市場では海外製品が90%近く出回る。そのため、当方自身、国内でのサーキュラーエコノミー達成は難しいと考え、大きな課題と捉えていた。

現状はパッケージ産業だけでの循環が行われており、化粧品企業含むメーカーがそれに必死という現実がある。廃棄物削減、プラスチック流出削減などといった取り組みとしては大変望ましい施策ではあるが、パッケージ問題に躍起になり、サプライチェーンの問題が全く見えない現状がある。

さらに、このところ国連がこの危機的な海洋プラスチック問題に対して注意喚起すべく、プラスチック製品(パッケージ含む)において、循環をさせるべきと訴えているため、余計に拍車がかかりそうなのも事実だ。

「バージンプラスチックを作らず、プラスチックを減らし(Reduce)、再利用して(Reuse)、再利用できないものはリサイクル(Recycle)して(パッケージなど)同じものをつくる」といった構図こそ、ある種のサーキュラーエコノミーであることは確かだが、日本国内にそれが表立って伝わると、「結局パッケージ戦略しか進まない」といったことが産業界では起きる。

それはなぜだろうか。まず、パッケージ類の3Rは、「プラスチックのサーキュラーエコノミー」であり、パッケージ産業においては循環に見えるが、化粧品をはじめとした加工産業全体においては、結局パッケージだけにとどまりやすいといえる。

また、日本では自然資本の中に産業が紐づいておらず、水俣病など、日本がこれまで抱えてきた独自の環境問題のアプローチが海外とは大きく違い、起こったことに対応してきた実績はあるものの、「保全」までは考えてこなかったからではないだろうか。

それ以外にも、原料が原産国任せである点なども「自分ごと」にならない背景だ。食品をはじめ、化粧品や日用品などの加工産業では、原料そのものを見ることが極端に少ない現状が、サプライチェーンの問題を見えにくくしている。

本来は、(海外では)認証がそれを補っている部分があるが、実はそれだけでカバーできていない現実があり、パッケージ戦略にとらわれない、産業規模の循環を考えなくてはならない。

alternathethis

オルタナ ・テシス

テシスとは英語で「論文」「小論文」の意味です。オルタナ創刊以来の精神である「オルタナティブ」(もう一つの選択肢)という価値観に沿った投稿を皆さまから広く募ります。

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