英語で学ぶサステナビリティ (34)

夏休み――とはいえ、体温を超える気温が連日のように報じられ、昔とは夏休みの風情も変わっているように感じます。

今月はLesson 7, “Social Media”「ソーシャルメディア」を読みます。企業がCSRの取り組み状況等を発信するうえで、いうまでもなくSNSは極めて重要な役割を果たしています。企業からの情報発信において効果的なツールである一方で、SNSがつねに消費者・生活者の目にさらされ、企業が掲げる理念や方針と現実に齟齬があることがわかるとたちまち逆の結果につながることも、私たちはよく知っています。

【語注】
domestic  国内の
penetration   浸透、普及(率)
transmit  発信する
faulty  欠陥のある
backlash  反動、反発
indiscretion  無分別、軽率
irreversible  取り返しのつかない
proliferation   急な拡散
like-minded   同じ考えを持った
dissemination  普及、流布

ソーシャルメディア活用の課題と成熟

According to the 2017 White Paper on Information and Communications by the Ministry of Internal Affairs and Communications, the domestic smartphone penetration rate was 75%. It means many people to freely receive and transmit information in “two-way” and “real time” through social media. As of 2018, Facebook has about 28 million users in Japan, Instagram has 29 million, Twitter has about 45 million, and the Japanese messenger service LINE is used by over 76 million people.

【訳】
総務省の情報通信白書(2017年)によると、スマートフォンの国内普及率は75%となっています。つまり、多くの人がソーシャルメディアを通じて情報を双方向かつリアルタイムで自由に受発信することが可能になりました。2018年の時点で、国内におけるFacebook ユーザー数は約2800万、Instagramは2900万、Twitterは約4500万、LINEは7600万を超えます。

Penetration は物理的な侵入、浸透のほか、この英文のように、商品の普及(率)、市場浸透、市場の占有率の意味があります。なお、2022年の同白書によれば、スマートフォンの普及率は88.6%となっています。SNSそれぞれのユーザー数については明示されていません。

タイムリーな話題ですが、「ツイッター」は名称が変わりましたね。

In such situations, if a company’s products, services, commercials, or marketing techniques are faulty, or if a post is released in such a way as to provoke a backlash from consumers, complaints and criticism towards the company can spread quickly. Unfortunately, the employee’s indiscretions of posting and the spread of those posts on social networking sites can set social media ablaze to an irreversible extent.

【訳】このような状況では、企業の商品・サービス、あるいはCMなどのマーケティング手法などに問題や不具合があったり、消費者からの反感を買うような投稿をしたりした場合、企業に対する不満や批判があっという間に拡散します。従業員の軽率な行為、投稿がSNS上で拡散すると取りかえしのつかない炎上になりかねません。

set social media ablazeは「炎上する」。ほかにblow up も使えます。

最近では、組織内LINE等の流出により、表向きの顔と内実が異なることが明らかになったことで、消費者から反感、失望が集まるケースもみられます。

With the proliferation of smartphones, it is easier for videos and photos to be posted and spread via social media instantly. The posts that are driven by strong emotions, such as anger and outrage against discrimination and injustice tend to be amplified. In some cases, this can lead to boycotts overseas. On the flip side, it is not uncommon for positive word of mouth to spread on social media when there is sympathy for a company’s products, services, or social activities, which often results in increased reputation and recognition in society.

【訳】スマートフォンの普及が急速に進んだことで、動画や写真による投稿が瞬時に拡散しやすくなりました。差別や不正義に対する怒りや義憤心から、激情にかられた投稿が増幅しやすい傾向があります。海外においては不買運動に発展する事例もあります。反対に、企業の商品、サービス、社会的活動に対する共感が得られる場合には、ソーシャルメディア上で好意的な口コミが広がり、その結果、評判・評価が高まることも少なくありません。

On the flip side は「一方で」。On the flip side of a coin は同じコインの表裏のような事柄から「裏を返せば」という意味になります。

word of mouthは「口コミ」。WOMと略して用いられます。

たとえば、2014年2月、大雪のため高速道路で車が立ち往生したとき、山崎製パンのドライバーが輸送中のパンを「好きなだけ持って行って」とほかの車のドライバーたちに無償提供したエピソードがあります。

パンを受け取った人が感謝の言葉を添えて画像をツイッター(当時)にアップすると、24時間で1万9千回近くリツイートされ一気に拡散しました。まとめサイトにも転載され、「太っ腹」「震災のときもヤマザキパンが来てくれた」等賞賛のコメントがついています。

継続的に同様の取り組みがなされていることが一貫性、説得力につながりました。企業にとって、まさに理想的なパターンでしょう。

重要な4つのテーマ

1) Storytelling: As companies communicate their CSR activities to a wider audience, they will be required to tell their stories on social media, including photos and videos, more frequently on their websites and blogs.

2) Transparency: With the widespread use of social media, information about a company will be easily accessible to a wider audience. Timely disclosure of not only management information for shareholders, but also information on compliance, environmental issues, and initiatives to improve the work environment will be increasingly required.

【訳】
1 ストーリーテリング:企業がCSR活動を広く社会に伝える方法として、より頻繁にホームページやブログなどで情報発信が行われ、写真や動画を盛り込みながら、ソーシャルメディア上で多くの人に伝わるストーリーを語ることが必要となるでしょう。

2 透明性:ソーシャルメディアの利用が広がることで、企業に関する情報は簡単に多くの人の目に触れることになります。株主向けの経営情報のみならず、コンプライアンス、環境問題、労働環境改善への取り組みなど、タイムリーな情報開示が一層求められます。

3) Communicating with consumers, citizens, shareholders, employees, and other stakeholders: Traditionally, the mainstream form of corporate CSR-related communication has been to communicate reports and releases via major media outlets. The use of social media enables companies to communicate directly to a diverse range of stakeholders, including consumers, citizens, shareholders and employees, and, most importantly, to get a timely response from them. Therefore, to effectively promote CSR activities, it is necessary to listen to these voices and engage in dialogue based on them.

【訳】
3 消費者・市民・株主・従業員など多様なステークホルダーとの対話:従来、企業のCSR関連のコミュニケーションとしてはレポート、リリースなどを大手メディア経由で伝える形が主流でした。ソーシャルメディアを活用することで、直接、消費者、市民、株主、従業員など、多様なステークホルダーへの情報発信が可能になり、また何より重要なこととして、彼らからのタイムリーな反応が得られます。それゆえに、CSR活動を効果的に推進するために、こうした声に耳を傾けたうえで対話を行うことが求められます。

Traditionally~は「従来は~だった」という表現に注意しましょう。一般に、traditionally という表現が用いられる場合、後に「いまは、そのやりかたではうまくいかない」「従来はそうだったが、これからは別の方法が主流となる」という展開になることが多いです。Conventionally も同じような文脈で用いられます。

4) Tapping into communities: Social media has made it easy for consumers to build communities of like-minded people. There are already many examples of how these interactions have led to the creation of new products and services, as well as the creation of communities of readers through continuous information dissemination.

Social media is considered to be a highly effective media tool for corporate CSR activities. It is an important issue that should continue to attract attention not only for CSR activities, but also for its potential impact on the management.

【訳】
4 コミュニティ活用:ソーシャルメディアを活用することで、消費者は簡単に同じような考えを持つ仲間とコミュニティを形成することが可能になりました。継続的な情報発信により、読者のコミュニティも生まれ、そうしたやりとりの中から新商品・サービスが生まれるような事例もすでに数多く生まれています。

企業のCSR活動にとってソーシャルメディアは非常に効果的なメディアツールであるとみなされます。CSR活動という枠にとどまらず、経営にも大きな影響を与えうる大切なテーマとしてこれからも注目する必要がありそうです。

Tap into は「活用する」。「入り込む」という意味もあります。

最後に、別の視点から。社会的によい目標のためであれ、SNSの停止を選択した企業もあります。LUSHはティーンエージャーにSNSが与える負の影響を鑑み、2021年11月SNSのアカウント停止を決定しました。

同社チーフ・デジタル・オフィサーであるジャック・コンスタンティン氏は公式ホームページで、「一部のSNSプラットフォームは、ユーザーにスクロールさせ続け、スイッチオフやリラックスができなくなるよう設計されたアルゴリズムを使っている。これはラッシュの理念とは真逆の考え方です」と、決断の理由を語っています。

朝から晩までついSNSを見てしまう、見ていないと不安になってしまう、というユーザーを取り囲む状況から目をそらさない同社の決断は、大きな反響を呼びました。

一般にCSR感度が高いとされるZ世代は、幼い頃からSNSが生活のなかにあった世代でもあります。企業としてCSRの情報発信にSNSをどう活用するかという課題とともに、情報の受け手である彼らにSNSが及ぼす負の影響をどう考えるかも今後重要な問いであるといえるでしょう。

今月はここまでです。また来月お目にかかりましょう。

aishima

相島 淑美(神戸学院大学経営学部准教授)

日本経済新聞記者、清泉女子大学英文学科教員を経て現職。翻訳家。鈴木淑美名義でJFK伝記など20数冊の訳書がある。 博士(先端マネジメント、関西学院大学)、MBA(関西学院大学)、修士(文学、慶應義塾大学)。文化・文学の視点から日本のマーケティング、SDGs、エシカル消費について研究している。執筆記事一覧

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キーワード: #サステナビリティ

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