世界の「統合報告書」をリードする「ノボノルディスク」社――下田屋毅の欧州CSR最前線(13)

在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅氏

欧州では、企業の「統合報告書」への動きが非常に注目されている。国際統合報告書委員会(IIRC)を中心に、統合報告書のパイロットプロジェクトも実施されており、サステナビリティ報告書のガイドラインであるGRIについても、統合報告書の方向へ舵を切った。欧州の企業も今後の統合報告書の動向を見守っている。

◆何が統合報告書の目的なのか?

統合報告書とは、もちろんアニュアルレポート(財務情報)とCSRレポート(非財務情報)の統合である。日本では「年間に報告書を2冊も作るのは大変だから」と軽く捉える向きもあるが、その「統合」には大きな意味を持つ。

「統合報告書は、サステナビリティ報告書ではない。進化した企業報告書のことである」と国際統合報告委員会技術部長のルイス・ガスリー氏は話す。それは、単に2つの報告書を合体させるのではなく、経営の根幹に企業の社会的責任の観点を組み込むことを意味する。

今回は統合報告書で世界を牽引している、「ノボノルディスク」についての取り組みをお伝えする。

ノボノルディスクは、デンマーク・コペンハーゲンをベースとした医薬品企業で、1923年に設立された。製品は5大陸190か国で販売され、従業員は3万3000人、バイオテクノロジーを基本としたヘルスケア企業である。

2012年CRRA世界報告書大賞の統合報告書部門で1位、総合部門5位、関連性&マテリアリティ(重要性)部門4位である。

ノボノルディスクのスザンヌ・ストーマー副社長兼CSR部長は、統合報告書をこう例える。「統合報告書とは、秩序である。統合報告書のキーポイントは、統合報告書を統合マネジメントに反映させることである。反対に言えば、もし統合マネジメントがなければ、統合報告書が成功することはないし、損失を発生させ、ステークホルダーはそれを理解することになる」

◆新しい経済における企業報告書の基準をつくる

スザンヌ氏はさらにこう話す。「我々の抱負は、新しい経済における企業報告書の基準をつくること。2012年から2015年までにトリプルボトムライン報告書を完全に財務報告書に統合し、その価値を追い求める」

ノボノルディスクの統合報告書の発行の経緯は次の通りだ。1994年に最初の環境報告書を発行、NGOの求めに応じて、環境フットプリントを発表した。

1995年には、環境報告書に「生命倫理」の項目を追加、1998年には、社会的報告書を発行、1999年に環境と社会的報告書を発行、2001年には、トリプルボトムラインをベースにした報告書を発行、そして、2004年に統合報告書へと移行した。

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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