「統合報告書」は「統合」だけすれば良いのではない――下田屋毅の欧州CSR最前線(14)

在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅氏

北米をベースとして世界にホテルチェーンを展開する「ウィンダムワールドワイド(ホテルグループ)」は今年初めて「統合報告書」を発行した。

世界では、統合報告書を発行する企業が年々増加してきている。コーポレートレジスタードットコムによると2006年時点では、世界で約50社が発行するのみだったが、2011年は、約350社にまで増加しており、最近は「統合報告書」発行へ流れが加速してきている。

ホテル業界は、1990年代は「ホスピタリティの質」、そして、2000年頃は「グローバリゼーション」が重要とされ、その後、ホテル事業において、「サステナビリティ」の重要性が高まってきた。そのようなサステナビリティへの高まりの中で、ウインダムホテルグループは、2009年、2010年は、ホテル業界のサステナビリティにおける世界的なベストプラクティスであると言われていた。しかしながら、「統合報告書」発行への道のりは簡単なものではなかったという。

ウィンダムワールドワイドのフェイス・テイラー副社長兼サステナビリティ部長は、「財務、環境、社会を統合したサステナビリティ報告書に昨年から取り組んだ。これはファイナンス部門にとっては新しいコンセプトであり最初は一緒に実施するのが大変だった。社内向けに『統合報告書のガイドライン』を作成し、それに則って全ホテルグループへの展開を実施した」と語る。

「実施していく上で、とても多くの教育とトレーニング、そして各部門とのより密接なコミュニケーション、そして、企業のカルチャーにも統合することが必要だと感じた」と言う。

フェイス・テイラー副社長は、さらにこう話す。「我々の組織のトップを始め重役達は、サステナビリティ・CSRについて理解しており、リーダーシップを発揮しそれぞれをサポートしている。これは、サステナビリティ報告書や統合報告書を作成するのに非常に重要なことである。その理解があるからこそ、サステナビリティチームは献身的な予算配分をされ、サステナビリティ・統合報告に投資することができている」

ステークホルダーエンゲージメントも重要な要素であるとしている。サステナビリティチームは、ステークホルダーと毎日対話をし、協働しており、特に需要なステークホルダーを「グループ企業」、「顧客」、「株主」の3つに特定。フランチャイズを含めたグループ企業とは、日々朝から晩までサステナビリティに関して対話をしているとのこと。

「私にとって、ステークホルダーエンゲージメントは、どのように彼らを取り込み、プロセスの一部となってもらうかだと考えている。我々がどのように活動を行っているかをステークホルダーにシェアするという観点から協働するとともに、常にできるだけ透明性を確保することを心がけている」とフェイス・テイラー副社長は話す。

初めての統合報告書を発行するに当たり、ウインダムホテルグループのフェイス・テイラー副社長は、次の7つの必要性を強調している。それらは、1.トップのコミットメント、2.社内ガイダンスの設定、3.社内教育・研修、4.CSR部門とファイナンス部門の連携、5.ステークホルダーエンゲージメント、6.企業カルチャーへの融合、7.テクノロジーの活用(各部署・グループからの情報収集)、である。

フェイス・テイラー副社長は「これが必ず違いをもたらすという信念で実施すれば、小さなことから変わってくる。社内では、企業価値向上の観点から、何でこれをしなければいけないのか、ケアするのかを継続して話していくことが非常に重要だと感じている」と力強く語る。

「統合報告書」は、財務報告書に非財務情報(環境・社会)を掲載しただけの情報が混合している報告書を意味するものではない。また、報告書を一つにすることで手間が省け、コストダウンが図れるというような簡単なものを意味するものでもないことがわかる。欧州の企業の中でも、統合報告に関する動向を見守っている段階だが、日本においても、「統合報告書」の本質を理解し、社内で議論を開始する段階に来ている。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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