記事のポイント
- 政府は東京電力福島第一原発のALPS処理水を、今月24日から海洋放出する
- これに対し、グリーンピースとFoEジャパンの2団体が抗議声明を出した
- 水には放射性物質が基準値を超えて残存し、総量が明らかになっていない
政府は8月22日、東京電力福島第一原発から出るALPS処理水を、今月24日から海洋放出すると決定した。これを受け、環境NGO2団体が抗議声明を発表した。水中に残存する放射性物質の総量はいまだに把握できておらず、今後数十年にわたって放出を続ければ広範囲の放射能汚染につながりかねない。(オルタナ副編集長・長濱慎)

■IAEAはALPSの運転状況さえ調査せず
抗議声明を発表したのは、国際環境NGOグリーンピース・ジャパンと、FoEジャパンの2団体だ。
グリーンピース・ジャパン プロジェクトリーダーの高田久代さんは、廃炉までのロードマップがないままの海洋放出に、こう危機感を表す。
「海洋放出すれば終わりではなく、汚染水は今後何年間にもわたって増え続ける一方、それを止める有効な手段はないままです。日本政府と東京電力は、廃炉のために海洋放出が必要と主張していますが、その廃炉までの現実的な道筋とその最終形は、事故から12年以上たった現在でも、いまだにはっきりとしないままです」
同じくグリーンピースの東アジア核問題スペシャリストのショーン・バーニーさんは、海洋放出にお墨付きを与えたとするIAEA(国際原子力機関)の調査を、こう指摘する。
「IAEAは日本の海洋放出計画を支持しましたが、ALPS(多核種除去設備)の運転状況は調査しておらず、放射能汚染水を生み出し続けている高レベルの燃料デブリについて触れていません」
「さらに、周辺国に重大な越境被害をもたらす危険性があるにもかかわらず、国際的な法的義務で義務づけられている包括的な環境影響評価を実施していません」
・グリーンピース・ジャパン声明の全文:放射性廃棄物の意図的な海洋放出は深刻な環境破壊
■放射能測定を行なったのは全体の3%弱
FoEジャパンは、1)方針を決めてから「理解」を押し付け、2)「海洋放出ありき」で進められた検討、3)放出される放射性物質の総量が不明など、5つの観点から声明を発表した。3)の放射線物質総量については、以下のように指摘する。
「タンク貯留水には、トリチウムのみならず、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129などの放射性物質が残留し、タンク貯留水の約7割で告示濃度比総和を上回っている。
東京電力は当初、ALPSによりトリチウム以外の放射性物質は除去し、基準を下回っていると説明してきた。トリチウム以外の核種が残留していることが明らかになったのは2018年の共同通信などによる報道によってである。
東電は、トリチウム以外の放射性物質が基準を超えている水(※)については、『二次処理して、基準以下にする』としているが、どのような放射性物質がどの程度残留するか、その総量は未だに示されていない。
それどころか、東電が詳細な放射能測定を行っているのは、全体の水の3%弱に相当する3つのタンク群にすぎない」
※編集部注:2018年9月時点で、タンク内の水の7割弱で60を超える放射性物質が排出基準を上回って残存していることが明らかになった。
・FoEジャパン声明の全文:ALPS処理汚染水の海洋放出に抗議するー「関係者の理解」は得られていない
政府や東京電力は、ALPS処理水は「トリチウム以外の放射性物質を排出基準以下まで取り除いたもの」であり、放出するのはあくまでも「処理水だ」と主張する。
しかしFoEジャパンが指摘する通り、現実にはトリチウム以外の基準値を超える放射性物質が残留しており、その総量は明らかになっておらず、処理の見通しも立っていない。同NGOは「処理されているが、放射性物質が残留する水」というべきとしている。
一部報道やインターネット上では「海外でも原発の処理水を海洋放出している事例がある」と指摘する声もある。しかし、これは冷却に使用したトリチウム水を出しているに過ぎない。
これに対し福島第一では、事故を起こした原子炉内の燃料デブリ(※)に直接触れた水(=トリチウム以外のさまざまな放射性物質を含むんだ可能性のある水)を放出する。これは世界でも前例がない。
この現状を考えると「汚染水」と呼ばれるのはやむを得ないだろう。
※燃料デブリ:核燃料や構造物が溶け、冷えて固まったもの