企業のサステナ担当者500人が集う「サスコミュ」とは

記事のポイント


  1. 企業のサステナ担当者は孤軍奮闘しがちで、抱えている課題は山積みだ
  2. 様々な企業の担当者同士がつながり合うコミュニティーが注目を集める
  3. 2年前に立ち上がったコミュニティーだが、会員は500人に迫る

急速に重要性が高まるサステナビリティ。あらゆる分野に裾野が広がる一方、急すぎる拡大に対応が追い付かず、企業のサステナ担当者などは孤軍奮闘しがちで課題も山積しています。そんなサステナ業界の課題を人的ネットワークで下支えするのが、現在500人に迫る勢いで急拡大を見せる「サステナブルコミュニティ」(サスコミュ)です。(オルタナ総研フェロー・中畑陽一) 

サステナ担当者が集まる「サスコミュ」

はじまりは深夜の思いつき

発起人は、支援会社や事業会社のサステナ担当としてサステナビリティ業界の経験が長い山路祐一氏。立ち上げのきっかけは、コロナ禍で他者とのつながりが希薄化してしまい危機感を覚えたことでした。

サステナ関係者のコミュニティーをネットで探したもののこれというものが見つからず、「それなら自分で立ち上げてみよう」と、深夜にSNSで発信したことが始まりです。

本人は5~6人集まれば御の字と考えていたところ、1カ月で約50人もの参加希望が集まり、使命感に駆られて2021年5月に「サスコミュ」を立ち上げました。

コミュニティーの活動は、Slackでの情報交換をベースに、オンライン上での勉強会やリアルでの交流会など。有志の運営メンバーに支えられ、2023年8月時点で500人近くにまで拡大しています。

立ち上げのきっかけとなる山路氏のSNS投稿

山路氏によると、立ち上げ当初からコミュニティー加入希望者ほぼ全員と30分程度の挨拶の場を設けていることが運営のこだわりだと言います。メンバーのニーズに即した運営につなげているようです。

「私はコミュニティー立ち上げの意思決定をしただけであり、『オレのコミュニティー』という感覚は本当にありません。立ち上げ当初から私の意思とは関係なくコミュニティーが自己増殖していると感じているので、私もコミュニティーの成長を見守る立場だと捉えています。何より、一人ひとりがコミュニティーの主役だと考えています」(山路氏)

主体的に運営に協力するコアメンバーが、様々な魅力的な企画を繰り出し、参加者の満足度を上げている点が特長だと語ります。

サステナ担当だけでなく、支援会社、投資家等金融機関、弁護士、コンサルタント、スタートアップ経営者、研究者や学生まで実に多彩なメンバーで構成されている点もコミュニティーの特徴です。

基本ルールとしてコミュニティー内の営業活動はNGとし、所属組織ではなくいち個人として参加することで、多角的な視点での本音の議論、様々な属性が結びつくネットワーキングがしやすい環境が構築されています。

■「サスコミュから出たスタートアップを目指す」

サスコミュでは、このようにリアルな情報共有や実務家との相談、実際のビジネスへのつながりなど多彩なアウトカムが実現しています。中でも注目に値する事例が、当コミュニティーにいる杉本淳氏がCEOとして経営するスタートアップ「シェルパ・アンド・カンパニー」によるリクルーティングです。

シェルバ・アンド・カンパニーの杉本氏(左)と中久保菜穂氏

シェルパは、企業のサステナビリティ情報開示をデジタル技術で効率化するプラットフォーム「SmartESG」の開発・販売などを手掛ける注目のスタートアップです。既に累計5億円の資金調達、数々の大手企業への導入が決まっています。

そのシェルパに今年6月、デロイトやS&P GlobalなどでESG分野のスペシャリストとして活躍してきた中久保菜穂氏がCEIO(チーフ・ESG・イノベーション・オフィサー)として電撃移籍したのです。

実は両名とも発足当初からサスコミュメンバーであり、サスコミュがきっかけで知り合い、中久保氏が前職時代からコミュニケーションを続ける中で信頼関係を深め、今回の移籍が実現したとのことです。

杉本氏は、「この道一筋で金融視点だけでなく、評価機関視点など業界の課題がわかっている。そうした専門性に加え、サスコミュを通して前向きな人柄に触れ、ぜひ一緒に働きたいと思った」と話します。

中久保氏も、何度か杉本氏と会う中で、パーパスや方向性の一致を確信し、自身の経験も生かせるシェルパへのジョインを決断したとのことです。

二人にとってサスコミュの存在も大きく、サスコミュを通して、リアルな課題に直面するサステナ担当へのヒアリングを重ね、プロダクト開発に活用できただけではなく、多様な参加者との交流が刺激になっているようです。

「目先の情報開示ではなく、サステナビリティを経営の当たり前にしていきたい」と語る杉本氏。「『サスコミュから出たスタートアップ』を目指す」と言うほど、コミュニティーへの愛情が強い。こうしたパーパス主導型の企業・人を引き付ける引力もサスコミュの魅力と言えるでしょう。

「何か始めるなら、まずサスコミュに相談する」を当たり前に

サスコミュは2023年5月に一般社団法人化し、『サステナビリティに関わる個人をつなぎ、新たな機会を創出する』をパーパスに掲げ、『何か始めるなら、まずサスコミュに相談する』と思ってもらえるプラットフォームの実現を目指しています。

メンバーそれぞれが、いち個人の立場で想いや課題認識を本音で話せるフランクな場所とするため、焦らずゆっくりと場を熟成させていきたいと考える代表の山路氏。今後は、コミュニティーメンバーの認知向上の支援や他団体との連携を進めていきたいとのことです。

サステナビリティという領域に、誰もが楽しく等身大で関わり続けていける。それがサスコミュの魅力です。

今後、あらゆる経済や社会の側面に実装が求められるサステナビリティ。山路氏が「弱いつながりの強さ理論を土台に、メンバー同士の相互補完関係を支え、必要になったときに協力しあえる関係性になることがコミュニティーとして目指す姿」と語るように、そこに多様な形で関わる人や価値を、やんわりと結び付けることで、サステナビリティ・イノベーションへの触媒になっていくに違いありません。

一般社団法人サステナブル・コミュニティ (sustainablecom.org)

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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キーワード: #サステナビリティ

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