サントリー、「水保全」のノウハウを他社に伝授へ

記事のポイント


  1. サントリーは水保全のノウハウを他社に伝授する取り組みを始める
  2. 同社は取水量以上の地下水を涵養する「ウォーター・ポジティブ」を実現
  3. 地下水を取水する企業に同等以上の水源涵養を求める自治体も出てきた

サントリーホールディングスは水保全のノウハウを他社に伝授する取り組みを始める。同社が掲げる「水理念」や安定して用水を確保する取り組みを、企業のサステナビリティ担当者らに伝える。地下水を取水する企業に対して、森林の土壌の整備に関する規制を強化する自治体も増えており、「水のサステナビリティ」への対応は急務だ。(オルタナ輪番編集長=池田真隆)

サントリーにとって良質な地下水の確保は事業の「生命線」だという

サントリーホールディングスは企業や自治体向けに水源涵養研修を行うと公表した。水源涵養とは、森林の土壌を整備することで、地下水の水質浄化につなげる取り組みだ。砂や粘土だけの無機質な土壌では雨水が地中深くまで浸み込むことができない。その結果、地下水の水質も悪化する。

一方、適切な間伐をすることで日光が入り、土壌生物が育つ環境に変わる。土壌生物などの力で土が団粒化(土壌の粒子が粘土状にならずに小さな塊になり、通気性が良くなること)し、土壌がスポンジのように柔らかくなる。雨水が深くまで染み込みやすくなり、地下水の水質改善につながる。同社では、全国の森林で水源涵養に向けた取り組みを行ってきた。

土壌改善を行うことで地下水の水質が改善する

インフラの老朽化など水リスク高まる

5月27日朝10時、メディア関係者らが山梨県北杜市の小渕沢駅に集まった。一行はバスに乗り、サントリー 天然水の森(南アルプス)や南アルプス白州工場などを見学した。

水源涵養の取り組みを見学する参加者

同社は、国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を涵養する「ウォーター・ポジティブ」を実現した。この取り組みに関心を持つ企業や自治体が増えてきたので、このほど正式な研修プログラムを立ち上げた。

近年、水インフラの老朽化による災害や水道料金の高騰、担い手不足による水源涵養林の荒廃など、水資源の安定供給に向けた課題が顕在化している。飲食業界や製造業などにとっては、水は必要不可欠な資源であり、水のサステナビリティに取り組むことが急務になってきた。

地下水を取水する企業に対して、森林の土壌の整備などを規制する自治体も増えている。熊本県では地下水を取水する企業に同等以上の水源涵養を求める条例も定めた。

サントリーにとって良質な地下水は「生命線」

サントリーグループでは、良質な地下水を同社の「生命線」と捉える。良質な水がなければ、ビールも清涼飲料もウイスキーも作れないからだ。

同社は「サントリー 天然水の森」と称して、水源涵養活動を20年以上行ってきた。工場の水源を特定し、その地権者と協定を締び、「天然水の森」とする。同社にとってこの活動は基幹事業の一つだ。

それぞれの森林に合った水源涵養の取り組みを行う

天然水の森として設定した森林は16都府県26カ所に広がる。総面積は1万2000ha以上だ。森林の整備によって、良質な地下水を育むことに加えて、「ウォーター・ポジティブ」も実現した。国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を涵養する。40人以上の研究者と連携し、科学的知見を基に取り組んでいることも特徴の一つだ。

同社はこの研修プログラムを通年で行う。毎月、2~3団体を受け入れるという。

サントリーホールディングスの藤原正明・常務執行役員サステナビリティ経営推進本部長は、「水理念を広く社会と共有することを目指しており、水源涵養研修はそのための大きな1歩だと捉えている。自社で培ったノウハウで水のサステナビリティをけん引していきたい」と話した。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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