「2℃上昇に抑えても極端な気候被害」ネイチャー誌に新論文

記事のポイント


  1. 英ネイチャー誌がこのほど、気候変動と自然被害について新しい論文を掲載した
  2. それによると、 2℃の温暖化でも3℃上昇並みの極端な気候災害が起こりうるという
  3. 従来のモデル「平均値」に基づくリスク評価は、偽りの安心感を生むと警告を鳴らす

「地球の平均気温を2℃上昇に抑えても、極端な気候被害を排除できない」――。こんなショッキングなシミュレーションをドイツ・ヘルムホルツ環境研究センターが英科学誌ネイチャーに発表した。42の気候モデルを用いて穀倉地帯の干ばつ、人口密集地の豪雨、森林火災を検証した結果、産業革命前の水準から2℃上昇した場合の最悪のシナリオは、3℃温暖化した場合の平均的な予測を上回るケースが確認された。従来のモデル平均値に依存するリスク評価の見直しが急務だ。(在テキサス編集委員・宮島謙二)

深刻な干ばつに見舞われた農地
(c) Alan Levine from PxHere

気候モデルは、科学的な根拠をもとに温暖化の予測を示す。各国の政策決定においてはこれまで、気候モデルが示す「平均値」を重視してきた。しかし今回の論文は、「平均値」に依存していると、実際に発生しうるリスクを見誤りかねないと警鐘を鳴らす。

■2℃の上昇でも、穀倉地帯での干ばつは深刻に

研究チームは、干ばつ、豪雨、森林火災の3つの気象分野を対象に、各分野での重要な地域を特定し、温暖化の影響を予測した。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書でも使用する42の気候モデルを分析した。

最も深刻な結果が出たのは、穀倉地帯の干ばつだ。トウモロコシや小麦、大豆、コメの主要産地を対象に干ばつの度合いを分析したところ、産業革命前の水準から2℃の温暖化であっても、42モデル中10のモデルが、3℃温暖化した場合の平均予測値を大幅に超えた。

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また、干ばつの発生頻度に関しても、産業革命前の気温では20%だった発生率が、2℃の温暖化では70%超に跳ね上がると試算する。これは、温暖化が産業革命前から2℃進むだけでも、食料安全保障やサプライチェーンへの影響は計り知れないことを示している。

論文の筆頭著者であるヘルムホルツ環境研究センターのエマヌエレ・ベバクア博士は、英メディアに、「2℃上昇でとどめても最悪の結果になる可能性を排除できない」と語った

■豪雨と森林火災でも、2℃の上昇で「3℃上昇並み」の被害に

もう一つ、深刻な結果が出たのが、人口密集地での豪雨だ。2℃温暖化したケースでも、人口密集地では、3℃温暖化した場合の極端な降雨の平均予測値を超えた。

森林火災では、2℃の温暖化で、42モデルのうち4つのモデルが、3℃温暖化した時の平均予測値を上回った。

■「平均値」の過信は、偽りの安心感を生む

注目すべきは、干ばつ、豪雨、火災の3分野で「最悪」の結果を示したモデルが、それぞれ異なる点だ。干ばつで最悪の予測を出すモデルが、豪雨でも最悪とは限らず、複数の分野で同時に「最悪」となる確率は低い。

こうしたばらつきの主因は、モデルの構造的な違いにある。例えば、降水量や土壌の水分量の変化は、複数の要因が絡み合うため、モデルによっては予測の幅が大きくなる。

そのため、地球規模での影響を示す「平均値」では、実際に発生しうるリスクを過小評価しかねない。

共著者である独ドレスデン工科大学のヤコブ・チャイシュラー教授は、「2°Cの地球温暖化が、それよりはるかに大きな温暖化と同程度に深刻になるという意味ではない。むしろ、特に脆弱な分野や社会的に重要な分野において、2℃の温暖化であっても、極端な影響が生じ得ることを示している」と指摘する

IPCCは「科学的評価」を担うが、それと「リスク評価」とは別物だ。英国気象庁ハドレーセンターのローワン・サットン所長は、この研究を「深く考えさせる内容」と評価し、今回の手法は「回避可能な気候リスクの評価に有益だ」との見解を示した。

IPCCの第6次評価報告書は、このままいけば2052年ごろに、産業革命前から2℃の気温上昇に達する可能性があると指摘する。今回の研究は、「リスク評価」においては、気候モデルの「平均値」だけに頼ることは偽りの安心感を生むことになると警告するものだ。

■気候に最も脆弱な人々の目線からの政策決定を

忘れてならないのは、シナリオが「最悪」の結果を示さなかったとしても、社会的に脆弱な立場の人々には、最悪の影響になり得るということだ。

政策決定においては、もっとも脆弱な人々にとっての最悪のケースを想定する、予防原則を取り入れる姿勢が求められる。気候モデルの予想を超えた気候災害で傷つく人々を、私たちはこれまで嫌と言うほど見てきたはずだ。

KENJIMIYAJIMA

宮島 謙二

テキサスA&M大学で気候変動を中心に学士(環境学)と修士(地球科学)を取得。気候変動に関する日本語の情報が少なかったため、英語で発信される情報を日本語で伝える『気候変動の向こう側』のブログとTwitterの運営を始める。フリーライター。テキサス州ダラス在住。

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キーワード: #気候変動

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