東急電鉄社長、「初の再エネ100%実現の理由」

■東急電鉄 渡邊功社長インタビュー(オルタナ69号記事先出し)

東急電鉄は2022年4月1日、鉄道運行に使用する電力を100%再生可能エネルギー由来に切り替えた。日本の鉄道会社としては初の試みだ。渡邊功社長は、コロナ禍で経営が苦しい今こそ「鉄道の復権」をかけて脱炭素に舵を切ったという。(聞き手:オルタナ編集長・森 摂、副編集長・長濱慎)

渡邊功・東急電鉄社長(撮影:高橋慎一)

■「少しずつの再エネ化」ではなく、一気にやった

―― なぜ東急電鉄は「再エネ100%」に踏み切れたのでしょうか。

鉄道の存在意義の一つは、「環境に良いこと」です。鉄道は自動車と比べると、輸送一人当たりのCO2排出効率が7.6倍良い(※)といわれています。気候変動防止に向けて社会全体が脱炭素を目指す中、鉄道こそが率先して再エネ導入を進めるべきと考えました。

これに先がけて、距離の短い「世田谷線」(5.0km)は2019年3月から再エネ100%による運行を始めました。そこから時間をかけて1路線ずつ、再エネに切り替えていくという選択肢もありました。その方が現実的で、スムーズに進められたかもしれません。

しかし、東急電鉄は日本初のステンレスカーをはじめ、鉄道業界のトップランナーとして業界初のさまざまな取り組みを実践してきた歴史があります。今回も「地球環境に良い鉄道」ということを積極的に発信しようと、あえて全路線一斉切り替えを選んだのです。

鉄道が「復権」を果たし、「コロナ禍で自家用車に流れた人々にもう一度、公共交通に振り向いていただくチャンスにしたい」という思いを「脱炭素」施策に込めました。

※旅客部門の単位輸送量あたりのCO2排出量:鉄道は17g/人kmに対し、乗用車は130 g/人km(国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」

■新型コロナで赤字続きでも、「やらなければならない」

―― コロナ禍で利用者が減るという、大変な時期と重なりましたね。

コロナ禍で鉄道業界には逆風が吹いており、東急電鉄も2020年から赤字続きという未曾有の状態が続いています。再エネ化は若干ですが電力コストが上がってしまうので、私自身も悩みました。社内では慎重な意見もありましたが、最終的に実施することを決断しました。

東急はグループ全体(連結ベース)で「環境ビジョン2030」を策定しました。そこでは2030年までにCO2排出量を46.2%削減(19年比)し再エネ化率を50%に、50年までに排出量実質ゼロ・再エネ化100%という目標を掲げています。こうした全社的な取り組みが、決断を後押ししてくれた経緯もあります。

鉄道運行の現場では、さまざまな取り組みを進めています。電車を走らせる際には、勾配やTASC(駅の停止位置で自動的に止まるシステム)を活用してモーターを極力使わずに走る「新エコ運転」を実践したり、車庫に停まっている間はパンタグラフを下ろして待機電力を節約したりして、消費電力の削減に努めています。

「新エコ運転」の導入により、電車1両を1km走らせるために必要な電力量を1カ月あたり13%削減できました(※)。省エネ性に優れた新型車両も順次導入し、トータルの電力消費量は減っているため、再エネ切り替えによるコスト増も吸収できる見通しです。

※東急電鉄による、2021年4月と19年4月の比較

従来車両比で使用電力を50%削減した新型車両(写真:東急)

以下、主な内容:

■SNSでも「よくやった」という反応が大多数

■東急の駅トイレは、100%温水便座を目指す

■渋沢栄一らが立ち上げた「田園都市株式会社」

■社長自ら理念を手帳に書き、いつも見返す

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S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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