記事のポイント
- アフリカの石油パイプラインに投融資しないよう、世界19都市で一斉アクション
- 気候危機、生物多様性の喪失、人権侵害のすべてにおいて高いリスクを懸念
- 三井住友銀が関与する一方、世界では40以上の金融機関が支援しないと表明
環境NGOや市民の非難をもっとも集めている化石燃料プロジェクトの一つが、ウガンダとタンザニアで進む「東アフリカ原油パイプライン(EACOP)」だ。アフリカ大陸開催となったCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)を機にさらに注目され、2月22日には世界19都市で投融資をしないよう金融機関に呼びかける一斉アクションが行われた。国内では東京など4都市でNGOや若者グループが、三井住友銀行と三菱UFJ銀行に声を上げた。すでに世界では、40以上の銀行や保険会社がプロジェクトに関与しないと表明している。(オルタナ副編集長・長濱慎)

■三井住友銀行がプロジェクトファイナンス共同幹事行に
一斉アクションは各国の市民が「#STOP EACOP」のスローガンのもとに集まり、東京、ロンドン、パリ、ニューヨーク、ヨハネスブルク、フランクフルト、ブリュッセルなど19都市で行った。
日本では国際環境NGO350.org Japanと若者グループのフライデーズ・フォー・フューチャー(FFF)気候正義プロジェクトの呼びかけで、東京、福岡、仙台、名古屋の4都市でスタンディングを実行。三井住友銀行と三菱UFJ銀行の本店や支店の前で、東アフリカ原油パイプライン(EACOP:イーコップ)を支援しないよう訴えた。
東京のアクションに参加したFFF気候正義プロジェクトの山本健太朗さんは、メガホンを手にこう訴えた。
「現地の活動家はEACOPを『新しい植民地支配』と呼んでいる。パイプラインによる気候危機の被害を真っ先に受けるのは先進国でなく、プロジェクトにほとんど加担していないアフリカの人々。これは不正義そのもので、国境を超えてつながる人々の力で止めるしかない」

EACOP(イーコップ)はウガンダで採掘した原油を、タンザニアの港まで輸送するパイプライン建設プロジェクトだ。全長は1443kmで、2023年中の着工と25年の完成を目指している。フランスのエネルギー大手・トタルエナジーズ(トタル社)が主導し、中国、ウガンダ、タンザニアの国営石油開発事業者も参画している。
三井住友銀行はトタル社の財務アドバイザーであるとともに、投融資の大半を占める30億ドルのプロジェクトファイナンス共同幹事行を務める。スタンダード銀行(南ア)と中国工商(ICBC)も、財務アドバイザーに名を連ねている。
三菱UFJ銀行は投融資をするか・しないかの意志を明らかにしていないため、今回のアクションの対象となった。22年11月にエジプトで開催されたCOP27のサイドイベントでは、アフリカの若者が同銀行の幹部に支援をしないよう訴える場面もあった。
一方で、世界40以上の銀行や保険会社がEACOPには関与しないと表明している。その中には米シティやJ Pモルガン・チェース、英バークレイズ、アフリカの開発支援を目的とするアフリカ開発銀行、邦銀ではみずほ銀行、保険では欧州最大手のアリアンツも含まれる。
これだけの数の金融機関が支援しないのは、EACOPが気候、生物多様性、人権の全てにおいて問題を抱えており、座礁資産化(※)するリスクが高いからだ。
※座礁資産:社会環境の変化にともない、価値が大幅に減少する資産
■3000万人の水源汚染や11万人強制移住などの人権侵害を懸念
環境NGO Bank Trackによると、EACOPは生産ピーク時に3430万トンのCO2(ウガンダの年間排出量の約7倍)を排出する。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、第6次評価報告書で「パリ協定の1.5℃目標を達成するには、温室効果ガスの排出量を2025年までにピークアウトさせなければならない」と警告した。その2025年に新たな大規模排出源を稼働させるのは、世界的な脱炭素の流れに逆行する。
サハラ砂漠以南のアフリカは日照条件が良く、太陽光などの再生可能エネルギー開発の方に力を入れるべきという指摘も、環境NGOから上がる。
原油は野生動物保護区や「ラムサール条約」(※)で指定された湿地で採掘するため、生態系への影響も懸念される。さらにパイプラインは3000万人以上の生活を賄うビクトリア湖畔を通るため、オイル漏れなどの事故が起きれば水質汚染も避けられない。
※ラムサール条約:湿地保護の国際条約で、1971年にイランのラムサールで採択

パイプライン建設で立ち退きを強いられる住民は約11万8000人。すでに用地取得のために約5千世帯が移住を余儀なくされ、十分な補償が得られず、家も農業や漁業の生業も失ったという悲痛な声が上がっている。ウガンダでは、プロジェクトに反対する住民や学生が警察に逮捕・勾留される事態も複数回起きている。
こうした事態を受け、欧州ではトタル社からのダイベストメント(投資撤退)を行う投資家も出ている。欧州議会も22年9月にウガンダ、タンザニア両政府に対してプロジェクト再考を働きかける決議を採択した。
日本国内では、350.org Japanのメンバーらが三井住友フィナンシャルグループに対して、株主提案を通して働きかけを行なっている。2022年の株主総会では、短中期的な温室効果ガス削減目標の策定などを求める提案が否決されたものの、27%の賛成を得た。
同団体チームリーダー代理の伊与田昌慶さんは「すでにトタル社は資金調達に苦慮しているという。EACOPを支援しないよう、引き続き金融機関に働きかけるのが重要」と話した。
三井住友銀行はオルタナ編集部の取材に対し、広報部を通してEACOPへの関与についてこう回答した。
「個別案件についてのコメントは差し控える。三井住友フィナンシャルグループは持続可能な社会の実現に貢献するため、引き続き気候変動への対応、生物多様性の保全、人権の保護尊重等に真摯に取り組んでいく」
三井住友銀行は、他の2メガバンクとともに「エクエーター原則」(赤道原則)を採択している。これは世界銀行グループの国際金融公社(IFC)などの呼びかけで2003年に策定された枠組みで、プロジェクト向け融資における環境・社会への配慮基準を定めている。
エクエーター原則は金融機関における環境配慮のグローバルスタンダードとなっており、世界で130を超える金融機関が採択している。三井住友銀行は今後どのように「真摯に取り組んでいく」かが、問われている。