いかにグローバルでビジネスと人権を推進するか、「ビジネスと人権フォーラム」最新レポート――下田屋毅の欧州CSR最前線(42)

■ 多国籍企業の人権侵害をいかに防ぐか

今回のフォーラムで、特に注目されていたのは、2014年6月にエクアドル・南アフリカから提起された国際的な条約締結による法規制化へ向けた国連の作業部会の設置についての決議26/9についてである。

これは歴史的な背景から、この条約による法規制化が、2011年から導入された「ビジネスと人権に関する指導原則」の進展を弱める可能性があるとされていたからである。

今回は、その条約締結による法規制化を提起したエクアドルのサイドイベントが2回開催され、エクアドル国連代表参事官ルイス・エスピノーサ・サラス氏が、エクアドルが提起にいたった理由を述べるなど関連するディスカッションが活発に行われた。

そして、決議26/9として作業部会が2015年7月から議論が始まるが、それまでの間にこの活動を効果的に進めることができるように、エクアドルは共同で提起した南アフリカなどと活動をしていくという。

エクアドルのルイス・エスピノーサ・サラス氏は、閉会式においてもパネルとして出席しスピーチを行い、「多国籍企業による人権侵害が防ぎ切れていないのは国際的な規制がないからである」とし、多国籍企業による効果的な救済と犠牲者への賠償ができるようにと、条約の制定による法規制化の必要性を訴えた。

同じく閉会式で一番大きな拍手を受けていたのは、アムネスティ・インターナショナルのグローバル問題担当オードリー・ゴーグラン氏のスピーチである。

「3年前の指導原則が出る前から状況は変わっていない」、また「今こそ条約による規制化が必要である。我々には条約が必要なのである」と述べ、人権侵害を食い止め救済を行えるようにする法律の必要性を訴えた。

その後、付言として、前国連事務総長特別代表であるジョン・ラギー教授がスピーチし、指導原則が適用されている場所においては一定の効果を上げていることを強調し、「指導原則は魔法ではないので、導入しようとしなければその効果を発揮することができない」と述べた。

また、「指導原則の導入とさらなる国際的な法制化に本質的な矛盾はない」としたが、現在エクアドルなどから提起されている条約制定については、「多国籍企業だけを取り上げるのは問題であり、国内の企業を含むすべての企業が対象となるべきである」と事例を挙げて伝えた。

さらに、「効果のない条約は数多く存在し、その実効性には疑問がある」とし、「今までどおり指導原則の導入にあたり、一歩一歩着実に進むことが非常に重要だ」と続けた。ラギー教授は、指導原則をこれまで以上に推進をしていくことを促した。

この第3回国連ビジネスと人権フォーラムは、昨年同様日本からの参加は10人程度と少なく残念だったが、地域的にもアジアからの参加が非常に少ない印象があった。また全体として企業からの参加が少ない印象があり、逆にNGOや市民団体、先住民族の存在感が目立っていた。

このフォーラムには、誰でも参加できる。次回のフォーラムは、2015年11月16日~18日だ。企業の方々には、自社の指導原則の取り組みを発表する場として是非足を運び、グローバルな人権の議論に加わり、それを肌で感じ、今後の実践につなげる機会としてほしい。

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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