谷本寛治教授(早稲田大学)からは、イノベーションとは新技術だけを指す概念ではなく、新しいビジネス・スキームや新しいマーケティング手法を指すこと、さらに新しい経営の手法、ステイクホルダーとの関係づくりなどの新しい仕組みなども含む概念であることが指摘されました。
いま日本国内では少子高齢化やエネルギー問題、グローバルレベルでは地球温暖化や環境問題、人口爆発、貧困、人権問題、政治腐敗など様々な社会的課題が山積しており、これら課題に取り組み持続可能な発展に資するイノベーションが求められています。
統一テーマ「企業家精神とサステナブル・イノベーション」を考えるにあたり、社会的課題解決のために新しいビジネスをはじめるアプローチ(社会的企業)と、すでに持っているビジネスノウハウや技術を社会的課題解決のために活用するアプローチ(大企業)の両方が重要であると指摘されました。
日本における起業率は、失敗を恐れるマインドや起業家の社会的地位の低さといった要因のため、欧米やアジア諸国の中でも低いことが特徴的です。
従来日本企業は、クローズド・イノベーション、技術的・漸進的イノベーションによる中間財の生産を得意とし成長してきましたが、これが大企業の官僚主義や成功の罠による変化への抵抗を生み、経営プロセスへのイノベーションの埋め込みを妨げており、日本の企業家精神の停滞につながっているという指摘がなされています。日本企業の外部ステイクホルダーとの協働構築レベルはグローベルレベルの平均値を下回っていることを示すデータもあります。
組織構造を変え、優れた才能を持つ外部の人を採用し、外部パートナーと連携していくことがイノベーションに繋がるのです。ソーシャル・イノベーションには、とくにオープンな場、オープンプロセスが必要です。持続可能な発展のために、生産者と消費者だけでなく、国内外のNGOや政府、研究者などマルチステイクホルダー間のクラスターを形成し、知識創造・資源獲得を経てソーシャル・イノベーションを創出していく重要性が指摘されました。
報告後のパネルディスカッションでは、顧客のみならず様々なステイクホルダーを巻き込み経済的価値および社会的価値を生んでいくための組織づくりが必要だということや、企業として社会的批判を受け止めながらも課題解決を図り社会的ニーズに応えていくために企業内企業家精神と企業の強いコミットメントが重要であることなどについて議論が行われました。