原田勝広の視点焦点:コロナ禍で活躍光るNPO

今村久美さんをご存じですか。2001年にNPOカタリバを設立した社会起業家の第一世代です。高校生のキャリア教育でスタートした当初は時代の方が追い付かず、地味な印象でしたが、いまやカタリバの学習プログラムは全国の高校、大学の200校以上で採用され、日本の教育界にイノベーションを起こしています。それだけではありません。東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城・女川、岩手・大槌でのコラボ・スクール、福島県の公立高校、ふたば未来学園の支援、熊本・益城での学習支援と被災弱者の応援にも焦点を当て続けています。世代の先頭ランナーといってもいい活躍ぶりです。

コロナ禍では、3月、子どもの学びと居場所づくりのために「カタリバ・オンライン」をスタートさせましたが、パソコンを使える環境にない子どもたちの存在に気づき、今、パソコンとWi-Fiを無償で貸与する伴走型支援であるキッカケプログラム「奨学パソコン」に踏み切っているところです。

これまでに北海道から沖縄まで全国の292人に貸し出しを行いました。このプログラムへの賛同者も多く、クラウドファンディングで3250万円の寄付も集まりました。小学生、中学生、高校生たちが貸与されたパソコンを使ってカタリバ・オンラインだけでなく英語や算数を勉強することが可能になったのです。

今村さんはパソコンの使い方を知らない家庭が多いのに愕然とし操作法から指導しました。さらに、利用者にアンケートをして驚いたそうです。7割がシングルマザーで、コロナ禍で職を失ったり、給与が減った人も少なくなく、まさに最も深刻な社会課題といわれる貧困格差の当事者だったからです。しかも、そうした家庭は子どもの不登校や発達障害にも悩んでいる二重苦、三重苦の只中にある深刻な状況が浮き彫りになったのです。

高校生の自分探しから被災地支援、シングルマザー支援、格差社会是正へと次々に活動分野を広げながら、子どもや若者と向き合ってきた今村さん、その活動の魅力は一体どこにあるのでしょうか。
ひとつは、カタリバ独特の子どもとの「ナナメの関係」ではないかと思います。タテ、つまり、学校の先生や親との関係では、どうしても建前や社会の規範、大人の価値観が前面に出がちです。それは必要ではありますが、過剰になると子どもは窮屈でしょう。そこで、建前ではなく本音、規制ではなくやさしさという手法が、子どもの心を開かせ、可能性を引き出していくような気がします。

もうひとつは、それと関連しますが、一言でいうと感性です。

harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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キーワード: #NPO

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