編集長コラム) アフリカでソーシャル・ビジネスに身を投じたCSR部員

■2週間で下痢に効果

味の素がガーナで販売するココプラス

--最初の反応はいかがでしたか。

北村: 最初は本当に大変で、1軒1軒訪ね歩いたのですが、全く売れませんでした。気温40度の炎天下のなか、300㍍間隔で離れた家々を歩いて回るのですから、1時間も持たずに干上がってしまいます。

なかなか売れないので徒労感が漂っていました。それでも、やっているうちにいくつか売れ始めました。

幸運だったのは、製品に含まれている大豆やアミノ酸などによって子どもに良い影響が表れ、効果を実感してくれたことです。2週間ほどで、ほとんどのお母さんから「下痢が減った」などの良い報告がありました。それが口コミで広がっていったのです。

--いま初めて試食しましたが、少し甘くてきな粉のような風味ですね。ココプラスは1日でどのくらい消費するのですか。

北村: ココは酸味が強く、ガーナ人は甘い味が好きなのでこの味に決めました。必要な栄養素を摂ってもらうために、1日で1袋消費してもらうようにしていますが、1食で1袋食べる人が多いです。

栄養面だけでなく、「美味しい」というのもポイントです。現在はガーナ全体で1日1千袋売れています。

--価格はいくらくらいですか。

北村: 現地通貨で1袋20ペセワスです。日本円換算で約11円(2013年5月現在)。ガーナの人は、その日その日を生きていますから、月収という概念がなく、家庭単位の日収が100-200円です。

ですから、ココプラスは決して安くありません。一家庭に子どもが5、6人いますから、毎日買って食べてもらうのは、容易なことではないのです。

■パートナーとの交渉が鍵

--北村さんがガーナに行く前と行かれた後で、最大のギャップは何でしょうか。

北村: 当たり前のことですが、紙に書いたことと現場は全く違いますね。とにかく物事を進めるのが大変です。

プロジェクトのパートナーは、ガーナ大学や国際協力NGO、政府機関など11団体います。「栄養改善」という大きな目標を立てると、誰もが「素晴らしい」といって反対しません。しかし、そこに向かう目的はそれぞれ違ってくるのです。

例えば、ガーナ大学は学術的な成果を期待し、国際協力NGOはコミュニティー開発を目指しています。私たちは製品を売りながら、栄養改善に寄与することが目標です。

それぞれ大きなベクトルは一緒でも、突き詰めていくと、やりたいことが違うので、いくら私たちが「製品を売ってほしい」と呼びかけても誰も動きません。ですから、彼らの目標を考えながら、大きなミッションを達成しないといけない。

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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