サラヤ、天然の界面活性剤を配合した「第三の洗剤」

サステナブル・セレクション 三つ星企業紹介

「第三の洗浄成分」ともいわれる天然界面活性剤を配合したサラヤの「ハッピーエレファント」シリーズ。持続可能なパーム油の調達から排水に至るまで、環境への影響を考慮して開発された洗剤だ。開発の背景には、「ボルネオの問題を世界に知ってほしい」との思いがあった。(オルタナ副編集長=吉田広子)

・廣岡竜也さん(サラヤ 広報宣伝統括部 統括部長)
・肥田布美子さん(サラヤ 広報宣伝統括部 係長)

サラヤの「ハッピーエレファント」シリーズ

■ 世界で初めて天然の界面活性剤を実用化

――植物性洗剤「ヤシノミ洗剤」シリーズに代表されるように、サラヤはこれまでも環境配慮型製品を展開してきました。「ハッピーエレファント」シリーズは、どのような経緯でつくられたのでしょうか。

肥田:より環境に配慮した洗剤を目指して生まれたのが、「ハッピーエレファント」シリーズです。2012年に発売し、洗濯用洗剤や食器用洗剤などを展開しています。

「ハッピーエレファント」シリーズは、植物性の洗浄成分をベースに、天然酵母が発酵して生まれる天然界面活性剤ソホロを配合しました。原材料の調達から製造過程、使用後の排水に至る「川上から川下まで」、環境への影響を考慮しています。

もともとサラヤは、20年ほど前にあるテレビ番組の取材を受けたことをきっかけに、洗剤の原料となるパーム油が、環境破壊にかかわっているかもしれないということを知りました。ボルネオ島では、パーム油の原料アブラヤシのプランテーション(大規模農園)開発が進み、熱帯雨林が伐採され、ゾウやオランウータンといった野生生物の住みかが失われているというのです。

パーム油は食用として利用されることがほとんどですが、こうした問題を知ったサラヤは、すぐにボルネオ環境保全プロジェクトを立ち上げました。2005年には日本に籍を置く企業として初めてRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟しました。当社の製品にはRSPO認証を受けたパーム油を使用しています。

アブラヤシ農園
ボルネオのアブラヤシ農園

――天然の界面活性剤と聞くと汚れ落ちが気になりますが、「ハッピーエレファント」シリーズはすっきりと汚れが落ちますね。

「ハッピーエレファント」の洗濯用洗剤は、水に溶かすことで、ウルトラファインバブルのような細かい泡が発生し、洗浄力が高まるということが分かっています。天然界面活性剤のソホロは、細胞保存液にも使われるほど安全性の高い成分で、最近では再生医療分野での活用も期待されています。

天然の界面活性剤は、昔から存在することが分かっていたのですが、安定的に大量生産する技術は無く、実用化には高い壁がありました。「ハッピーエレファント」は、当社研究員の「合成洗剤でも、石けんでもない『第三の選択肢』をつくりたい」という思いがあり、世界で初めて製品化が実現した商品です。

■ 森林破壊を目にし、思いを新たに

――サラヤ社員はボルネオ視察に行かれることも多いそうですが、何が印象に残っていますか。

「ボルネオ・エレファント・サンクチュアリ(BORNEAN ELEPHANT SANCTUARY)」。 群れからはぐれたり、農民との対立で傷ついたゾウを手当てし、保護する施設
群れからはぐれたり、農民との対立で傷ついたゾウを手当てし、保護する施設「ボルネオ・エレファント・サンクチュアリ」

肥田:コロナ禍もあり、私は2023年に初めてボルネオに行くことができました。実際に熱帯雨林に行くと、背が高い木や低い木、さまざまな植物が目に飛び込んできて、その力強さに圧倒されました。

空港から車で移動している間、アブラヤシのプランテーションが延々と続くのですが、熱帯雨林とは対照的で、とても人工的な風景に感じました。人間の都合で住みかを奪われ、保護されたゾウにも出合いました。

こうした熱帯雨林や野生生物を前に、絶対にここを守らなければならないという思いを新たにしました。

同時に、パーム油産業で働き、生計を立てている現地の人たちの暮らしも理解できました。貴重なボルネオの生物多様性の保全と、持続可能なパーム油産業の両立は世界的な課題です。

パーム油を使う企業にとどまらず、パーム油を使った食べ物を食べたり、洗剤を使ったりする消費者にも、こうした問題を知ってもらうことは、私たちの大事な仕事であると実感しました。

「ハッピーエレファント」シリーズの売り上げの1%は、ボルネオの環境保全活動に寄付されます。メーカーとしては大きな決断なのですが、ボルネオの現状を知る社員も多いので、その重要性を共通認識として持てていることは当社の強みだと感じています。

■ ボルネオの問題を世界で共有したい

――寄付付き商品の展開など、こうした消費者を巻き込む仕組みづくりもサラヤの特徴ですね。

廣岡:ボルネオの問題を知り、「植物性であれば環境に良い」と、単純には言えないことを実感しました。ボルネオの問題は、日本だけではなく、世界中のみんなで共有しなければならない大きな問題です。「ハッピーエレファント」シリーズは、こうした問題を世界に訴求するために、世界展開を視野に入れて開発されました。

世界にはさまざまな環境配慮型の商品やブランドがありますが、その多くはワンウェイ(一方通行)です。

「ハッピーエレファント」シリーズは生分解性が高く、排水は微生物によって、水とCO2(二酸化炭素)に素早く分解されます。発生したCO2は植物の成長過程で吸収されますから、森づくりが重要なのです。これらはすべてつながっています。

サラヤは世界でいち早く天然の界面活性剤を製品化し、循環モデルを構築しました。

まだまだベストな商品だとは思っていませんが、「ハッピーエレファント」シリーズが、世界の人たちにとって、環境について考えるきっかけになればと思います。ユーザーが増えれば増えるけど、ボルネオの問題が改善するスピードは早くなりますので、より多くの人に使っていただきたいです。

肥田:「環境に良い商品」と「環境に悪い商品」、どちらを使いたいかと聞かれたら、皆さん「環境に良い商品」と答えると思います。一方で、「環境のために何かしたい」と思っていても、何から始めれば良いか分からない人も多いです。

「ハッピーエレファント」シリーズのような日用品を環境配慮型に変えることは、環境への取り組みの第一歩といえます。メーカーとしては、洗浄力や使い心地など、お客様の暮らしも大切にしながら、環境活動ができるということを伝えていきたいです。

※サラヤ「ハッピーエレファント」シリーズは、オルタナとサステナ経営協会が共催する「サステナブル・セレクション2023」の三つ星に選ばれました。「サステナブル・セレクション2024」の応募は、4月1日から受け付けます。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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