オルタナ78号・連載「欧州CSR最前線」51
2024年5月30日~6月1日、筆者はデンマークのロラン島で開催された「食の国民会議」に参加した。そのセッションの一つとして、 デンマークの食のマニフェストを顧みるディスカッションが行われた。これはデンマークの国民が、 自分たちの食について話し合って決めていく会議で、政治家、研究者、生産者、飲食業界・ シェフなどが参加し対話する。(CSRコンサルタント・下田屋毅)
会議には今年も 1 万人以上が参加し、100 以上の 討論、80 もの食の体験や展示などが行われた。中でも興味をひかれたのが、レストラン「NOMA」を創設したクラウス・マイヤー氏 が登壇したセッショだ。食のマニフェスト が出来て 20 年を迎え、その是非を問うというものだった。
NOMA は「世界のベストレストラン 50」で 1位を 5 回獲得している。他にもデンマークの多くのレストランがランクインするなど、世界 の飲食業界に大きな影響をもたらしてきた。 もともとデンマークは、このようなガストロノミー(美食を追求する)レストランが盛 んだったわけでもなく、突出した料理を提供 する国だったわけでもない。
フランスやイタリアのように、食事を特別な機会として楽しむという発想がなかった。 それが向上したのは、「ニュー・ノルディック・ キュイジーヌ(新北欧料理)における 10 のマ ニフェスト」ができたからである。デンマーク のすべてのシェフがこのマニフェストをよりど ころとし、同国の食の根幹を担っている。
20 年前のデンマークのシェフはフランス 料理などへのあこがれが強く、そちらを重要視する傾向があった。しかしそれよりも、デンマークが本来持っているものを理解し、自国の食を取り戻すことが大切だという結論に至ったという。 今やマニフェストは、料理人が食に関して 確認をするための道標となっている。