記事のポイント
- 米国では第二次トランプ政権が誕生し、EUでも右派が拡大
- 気候変動やDEI施策に関して否定的な動きが各国に広がる
- SDGsへのバックラッシュなのか、企業は冷静な見極めが必要だ
米国では第二次トランプ政権が誕生し、EUでも右派政党が各国で台頭している。気候変動対策やDEI施策への否定的な動きが広がる中で、2030年のゴールを目指すSDGsは逆行するのか。これからの展望については冷静な見極めが必要だ。(サステナビリティ・プランナー=伊藤 恵)

オーストリアでは、極右政党の自由党が第1党に躍進し、イタリア、オランダ、フランスなどに続き、極右政党が第1党のEU加盟国になった。自由党はEUの気候変動対策にも懐疑的な政治姿勢をとっており、気候変動対策やグリーン・ディールに対して逆風をもたらす可能性が高い。
形式的にはオーストリア政府はグリーン・ディールを支持しているものの、その目標を下げる動きが目立つ。自由党の台頭によって、今後この傾向はさらに強化されると考えられる。
■ウォルマートやボーイングなど、「DEI」撤退の動き
世界最大の小売業者であるウォルマートは、DEIに関連するプログラムを撤回することを発表した。今後は人種や性別に基づく多様性を考慮することなく、融資や契約の適格性を評価する際にも人口動態データの収集をやめると明言した。
「DEI」という用語を公式なコミュニケーションから除外し、従業員に対する人種平等研修も制限する意向を示した。LGBTQ団体への支援も見直す方針で、プライドパレードなどのイベントのサポートも控える方針だ。
ボーイング社では大規模な組織再編でDEI部門を解散し、同部門を監督していた副社長が辞任。新CEOの下で、以前のようにマイノリティの採用を積極的に進める方針は放棄されることになった。同社は「人種的、性的なアイデンティティではなく、真に人々を思いやり、能力に基づいて採用する」と強調し、今後は個々のスキルや適性による評価が重視される方針を打ち出している。
このような動きは、米国での保守的な潮流の高まりを象徴している。特に、保守派からの批判が高まった背景には、DEI施策が「逆差別」として捉えられることが多く、企業が社会的責任を果たすために推進してきた取り組みが否定的に評価される傾向が影響している。この流れは、企業が社会問題にどのように対処するかを変える可能性がある。
企業がDEIプログラムを縮小または撤回するこのような動きは、社会全体に及ぼす影響力が弱まることを意味し、多様性や包括性が軽視される結果になる恐れもある。したがって、この現象は、米国国内だけでなく、国際的にも重要な意味を持つと言える。
■トヨタもDEIプログラムを縮小へ
トヨタ自動車もDEIプログラム、LGBTQ支援イベントから撤退する方針を発表した。この決定は、取り組みが保守層からの反感を呼び、SNSでの批判が広まったことに起因する。
トヨタは、従業員向けのメモで今後の活動をSTEM教育やビジネス成長に重心を置くことを明らかにし、人権団体からの評価からも距離を置く意向を示した。
同社は「多様な意見が尊重される環境を奨励する」としながらも、企業成長を優先する姿勢を強調した
意志決定は、日本における企業の社会的責任へのアプローチにも大きな影響を与える可能性がある。DEI活動が縮小する中で、企業としての姿勢をどのように維持していくのかが重要な課題となるだろう。
一連の動きは、大きな歴史的な変化の中での一時的な揺り戻しなのか、継続的なものなのか、注視しなければならない。柔軟に変化に対応し続けることが求められる時代に、これからの展望がどうなるのか、冷静に見極めていく必要があるだろう。