編集長コラム) 「良い世襲」と「悪い世襲」

本田技研工業の創業者、本田宗一郎氏は、会社に親族を入れることを頑なに拒んだ。「生涯の悔いは会社に本田という名前をつけたことだ。あれは、皆の会社なのに自分の名前をつけてしまった」と周囲に漏らしたとされる。

一方のトヨタ自動車では、奥田、張、渡辺の各社長のあと14年ぶりに「大政奉還」を遂げ、2009年、創業家の豊田章男氏に引き継がれた。章男氏の手腕にはさまざまな見方があるが、今後のトヨタをどう引っ張っていくのか、世襲は企業にとってマイナスではないことを証明できるのか、注目される。

実は筆者は20年余り前の新聞記者時代に、ダイエーと松下電器産業をよく取材していた。両社とも、創業者は世襲を選択した。

ダイエーの中内功氏は長男に小売業を、次男に福岡での事業を継承するべく腐心していたが、結局は、そのどちらも実らなかった。

特に長男の方は真面目で勉強熱心だったが、やはり当時の2兆円企業のトップに立つには、無理があった。父親が築き上げた帝国があまりに大き過ぎ、その重圧も余りあるものだっただろう。

松下電器は、幸之助氏の死後、世襲の問題が長年の隠れた経営課題になっていた。「松下幸之助氏ほどの偉大な経営の神様でも、後継者選びを間違えることがあるものだ」と思うと複雑な気持ちにさせられる。

幸之助氏の女婿、正治氏は社長退任後も影響力を行使し続け、2012年7月に99歳で亡くなる前月まで、代表権(代表取締役相談役名誉会長)を手放さなかった。この十数年、歴代の社長は「松下家との距離感」に悩まされていた。

大日本印刷も「悪い世襲」の代表例だろう。在位35年を超える北島義俊社長は「中興の祖」である織衛・元社長の長男で、自らの長男も副社長に引っ張り上げた。

この会社で問題になっているのは株式配当を含めれば10億円を超えるとされる、従業員との年収格差だ。

「なぜ創業者でもない一族が会社を牛耳っているのか疑問。8億以上の高報酬を受け取っている事も疑問。役員を厚遇し、社員を冷遇する会社に未来はない」(20代後半の男性社員)=月刊BOSS2010年9月号。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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