松岡秀紀氏(アジア・太平洋人権情報センター)からは、人権デューディリジェンスとはすぐれて実務的な問題であるとして、調達・人事・研究開発・設計・法務・広報・営業といった社内各部門が、業務に関連づけて人権課題を理解し取り組むことができるようなアプローチが例示されました。
企業活動による人権への負の影響を特定するに当たっては、営業部は顧客の期待に応えるという方法で消費者の人権を考慮する、広報部は差別的表現を使わないことや、マイナス情報も開示するという方法で情報を受け取る人々の人権を考慮する、設計部は使用済み製品が正しく処理されずに輸出/廃棄された場合でも現地の人々の健康被害を招くことがないように製品設計を行うことにより商品リサイクル/廃棄に携わる人々の人権を考慮する、など。このように、本来業務のプロセスの中で人権を考え、予防措置をとることが重要だと指摘されました。
報告後のディスカッションでは、人権問題は独立した問題ではなく、バリューチェーンの各プロセスに要素として存在していること。会社全体の活動に統合的に組み入れていくには、トップのリーダーシップが不可欠であることが指摘されました。ただそれは一朝一夕に実現できる取り組みではないため、まずは基本方針を作り、人権デューディリジェンスを進める素地をつくり、キーパーソンを育てるといった地道な努力が必要であること。人権問題は経営リスクにつながるという強い働きかけも必要である、といった指摘もなされました。
■横並びではなく、各企業のニーズに合った人権教育を
司会の國部克彦教授(神戸大学大学院経営学研究科)からは、どのような企業・職場にも汎用性のある人権教育のあり方というようなものはない。各企業がそれぞれのニーズに基づいて取捨選択、判断していくべきものである。本日のような議論をもとに各企業で検討していくことが求められる、とコメントされました。
※今回記事の執筆にあたり、JFBS 会員で京都産業大学准教授古村公久氏の協力を得ました。
(この記事は、株式会社オルタナが2014年5月7日に発行した「CSRmonthly 第20号」から転載しました)