世界のシェアード・バリューの今【世界を変えるCSV戦略】

トップにブルームバーグ元ニューヨーク市長を据え、さらなる展開が注目されるSASBの話を聞いて、マテリアリティはシェアード・バリューにこそ重要であるという認識を持ちました。ブラックロックは、リスク側面が中心ではありますが、投資先企業のESGに対するポリシーやそれを実践しているかを、エンゲージメントしながらしっかり評価しているようです。ネスレは、SRI投資家と一般の投資家の両方にしっかり対応するコミュニケーションを行っています。

多くの投資家がシェアード・バリューに興味を持つのには、まだ時間がかかりそうですが、SASBなどが投資家の視野を広める動きと、シェアード・バリューが実際に企業の競争力を高める事例が重なってくれば、数年先には、投資家の動きも変わってくるかもしれません。

なお、サミットでは、多くの事例が紹介されましたが、キリンの磯崎功典社長の講演や住友化学のオリセットネットの事例紹介も行われました。磯崎社長は、キリンがCSV本部を設立した経緯や事例を説明された上で、「まだまだこれからです」というニュアンスで話をされていましたが、その率直な姿勢は、好感を持って受け入れられていたようです。

また、質疑応答の中で、ブリヂストンが、屋根の上で作業をする職人がすべって危険だというので、その問題を解決するためにゴム足袋を開発したところからスタートしているなどの事例をあげ、日本企業にはシェアード・バリューが根付いているという話をされていました。これも、聴衆にとっては、印象深かったようです。

その他、コカ・コーラがブラジルで若者の雇用支援のために行っているコレチーボ、簡易な機械で途上国のコンクリートの品質を向上させ、建物崩壊の被害を減らしている「CART-AWAY」、カナダで社会問題を解決する取り組みに航空会社のマイルを付与している「Air Miles for Social Change」など、世界で様々な活動が行われています。

サミット翌日は、世界のコンサルティング会社の人たちと、シェアード・バリューの現状を共有しました。韓国では、政府がCSVフォーラムなるものを設置して、財閥企業を中心にシェアード・バリューの研究を進めているほか、優れた取り組みには、補助金も出しているようです。コロンビアでは、商工会議所がシェアード・バリューの取り組みを表彰しているということです。世界中で、様々な形で、シェアード・バリューの取り組みが進みつつあります。

【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/サステナビリティのコンサルティングを主業務とする。ブログ「CSV/シェアード・バリュー経営論」共著『CSV 経営』(NTT 出版)

(この記事は、株式会社オルタナが2014年6月5日に発行した「CSRmonthly 第21号」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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