トライセクター・リーダー【世界を変えるCSV戦略】

こうした民間、公共、市民社会の3つのセクターの垣根を越えて活躍する人材は、人材の流動性が高い米国などでは、マッキンゼーを経てクリントン政権でサマーズ財務長官の首席補佐官になり、その後、グーグル副社長、フェイスブックのCOOとして活躍しつつ、女性の社会進出をテーマにした財団LeanIn.org を主催するシェリル・サンドバーグ氏などを代表例として、数多く存在します。
 
日本でも、公務員の天下りなどは、セクターの垣根を越えていると言えるかもしれませんが、30年も同じ職場に勤めていると、柔軟に新しい組織になじんで活躍するのは、容易ではないでしょう。

もっと若いうちに、多様なセクターのことを理解する経験を積むことが必要です。最近では、日本でも若いうちに公務員から民間企業に転じる人、民間企業からNPOや社会起業家に転じる人も出てきていますが、市民セクターが発達していないこともあり、まだまだ少数です。
 
しかし、トライセクター・リーダーになるには、セクター間の垣根を越えて異動することが必須ではありません。しかし、ほかのセクターのことを理解して、適切に協働できることは必要です。それぞれのセクターの組織の求めるもの、意思決定の仕組み、強み・弱み、組織風土などを理解し、それに合わせることができることが求められます。

そうしたトライセクター・リーダーとしてのセンスは、仕事、ボランティア、プライベートなどで、ほかのセクターの人々と交流、協働することを通じて、培われかもしれません。

ジョセフ・ナイ教授は、「トライセクター・リーダーは、いかなるセクターに属していても公共価値に寄与できる。セクターを移動しても、公共価値への貢献意欲を持ち続けるのだ」と言っていますが、トライセクター・リーダーの最も重要な要件は、「公共価値」創造への意欲かもしれません。

株主価値の創造が求められる企業においても、「公共価値」の創造に貢献したいという意欲を持つ人材はいます。そうした人材をトライセクター・リーダーとして育成し、能力を発揮してもらうことが、これからは重要になるでしょう。

【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/サステナビリティのコンサルティングを主業務とする。ブログ「CSV/ シェアード・バリュー経営論」共著『CSV 経営』(NTT 出版)

(この記事は、株式会社オルタナが2014年10月5日に発行した「CSRmonthly 第25号」から転載しました)

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..