■統合報告を実務の観点から理解する
上記2冊は統合報告の本質に最も近い著作であると思われますが、ではどのように統合報告を進めていけばいいのかについては、新日本有限責任監査法人 市村清氏監修の『投資家と企業との対話』(2014)が参考になるでしょう。特に第二部においてFWに照らし合わせつつ、ビジョンや長期計画の設定やガバナンスの重要性など、どのようにそれを考え、実行していけばいいのかの勘所について掲載されています。
同じく市村清氏監修の『統合報告 導入ハンドブック』(2013)は(FWができる前のものですが)、ドラフトをベースに統合報告の考え方をわかりやすく解説してあり、初めて統合報告に取り組む方には参考になるものと思われます。(最後の「アニュアルレポートとCSR報告書等を1冊にまとめてみましょう」については媒体を1つにするという意味では捉えない方がいいでしょう)
尚この2冊は、日本において統合報告に取り組むにあたって実際的な観点で、平易な文章でまとめられていますが、具体的な「作り方」は書かれていませんのでご注意を。(理由は最後をご覧ください)
■様々な観点から統合報告を捉える
日本における現状の情報開示形態からどのように非財務情報を統合的にすり合わせて作り上げていくのか、有価証券報告書などの法定開示を意識しながら、多くの有識者の観点を集めて記載している宝印刷総合ディスクロージャー研究所『統合報告書による情報開示の新潮流』(2014)も、日本の現状からその開示の問題を扱ったものとして興味深いものです。国内事例として、武田薬品、オムロン、フロイント産業のキーパーソンへのインタビューもあり、統合報告への挑戦の現場の声として興味深いものになっています。
個人的なお気に入りとしては京都大学経済学博士の越智教授による『持続可能性とイノベーションの統合報告』(2015)です。財務・非財務、ハードロー・ソフトローの統合の本質的な問題点と解決法、戦略やリーダーシップ不在の日本企業の課題などからどのようにイノベーションに結び付けて「統合」していけるのか、広範な知識による深い分析が織り成されています。
論文的な緻密さのため、読み解くのは大変ですが、非常に示唆に富んでいます。第三部で展開されている監査・保証業務についての分析も、統合報告の信頼性をどのように担保し得るのか、監査の在り方にもイノベーションが必要であることが浮き彫りにされています。
このほか他者事例やベストプラクティス紹介と言う意味では、同類の分析資料として無料で手に入る日本公認会計士協会の『国際統合報告の事例研究』が大いに参考になるでしょう。神戸大学の名誉教授である古賀氏が中心に統合報告の発行形態から海外のベストプラクティスをまとめた『統合報告革命』も最近発行されています。
■統合思考経営を理解するための海外書籍