日立など先行「価値創造型経営」、資本効率と成長投資の二兎を追う

記事のポイント


  1. 日立製作所などは資本効率と成長投資の両立を掲げ、「価値創造」を目指す
  2. ROEを重視する日本企業は増えたが、成長投資への水準は依然として低い
  3. 経産省は資本効率改善に加えて、企業に「価値創造のための投資」を促す

日立製作所などは資本効率と成長投資の両立を掲げ、「価値創造型経営」に移行しました。ROE(自己資本利益率)を重視する日本企業は増えていますが、売上高に占める成長投資の水準は欧州や米国の企業と比べて低いままです。経産省は資本効率の改善に加えて、企業に「価値創造のための投資」を促します。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

日本企業はいま、「効率よく稼ぐ経営」を土台としながら、「未来に投資して価値を生み出す経営」へ進化できるかが問われています。 経済産業省は2026年5月、「成長投資ガイダンス(案)」を公表しました。正式版は今夏に公表予定ですが、本ガイダンスは、日本企業に対し、3つの問いを突き付けます。

「成長投資ガイダンス(案)」は、資本効率を高めるだけでなく、将来の成長につながる投資を通じて、持続的に企業価値を高めることを求めます。これは、これまでのコーポレートガバナンス改革の成果を踏まえつつ、日本企業の経営改革を「価値創造重視」の段階へ進める重要な転換点として注目されます。

「伊藤レポート」から成長投資ガイダンスへ

今回の動きの背景には、2014年の「伊藤レポート」以降、10年以上にわたり継続してきた日本企業の経営改革の流れがあります。

伊藤レポートは、「日本企業は資本コストを意識した経営が十分ではない」と問題提起し、ROE(自己資本利益率)を重視する経営改革を促しました。

その後、2015年のコーポレートガバナンス・コード適用開始や、2023年3月の東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」要請などを通じ、日本企業における資本効率への意識は着実に高まってきました。

しかし、新たな課題も浮かび上がっています。ROE改善や株主還元への関心が高まる一方で、日本企業全体としては成長投資の水準が依然として低いとの課題が指摘されています。

成長投資ガイダンスによれば、2023年度の対売上高成長投資比率(人件費、研究開発費、設備投資の合計)は、米国企業が29.4%、ユーロ圏企業が27.2%であるのに対し、日本企業は17.7%にとどまっています。日本企業は、将来価値を生み出すための投資を抑制してきた実態が見て取れます。

設備投資、研究開発投資、人材投資、知的財産・無形資産投資、新規事業投資――。こうした将来価値につながる投資を十分に行わなければ、短期的にROEなどの財務指標が改善したとしても、中長期的な競争力を維持することは困難です。

成長投資ガイダンスは、こうした問題認識を背景にまとめられたものです。資本効率改善の次のステージとして、日本企業に「価値創造のための投資」を促そうとしているのです。

価値創造はROEだけでは測れない

今回のガイダンスが重要なのは、「資本効率を高めるべきである」という従来の方向性を否定するのではなく、その先にある「成長投資による価値創造」を重視している点にあります。

求められているのは、短期的な利益や株主還元の最大化ではありません。企業が生み出す経済的付加価値を継続的に創出できるかという視点です。

その際に重要な考え方として位置付けられているのが、EP(エコノミック・プロフィット:経済的利益)です。 

EPは、企業が生み出した利益から資本コストを差し引いて算出される指標であり、「資本コストを上回る経済的価値をどれだけ生み出したか」という価値創造額に着目します。一方、ROEは、「資本に対してどれだけ効率よく利益を上げているか」という効率に着目します。

経営陣にとって投資の拡大は、短期的なROEの低下を招くリスクがあり、意思決定をためらわせる要因となり得ます。

しかし、たとえ短期的にROEが低下したとしても、中長期的に資本コストを上回る経済的利益(EP)を創出できれば、それは企業価値向上につながる真の価値創造である――。成長投資ガイダンスには、そのような考え方が示されています。

つまり、短期的なROEの変動に過度にとらわれず、将来の成長につながる投資に積極的に踏み出すべきだという、経営者への強いメッセージが込められています。

「改善型経営」を土台とした「価値創造型経営」へ

日本企業は長年にわたり、「改善」を通じて競争力を築いてきました。品質向上、コスト削減、生産性向上など、現場力を軸とした日本型経営は、製造業を中心に世界的な競争優位を支えてきました。

改善は日本企業の大きな強みであり、既存事業の競争力を高めるうえで極めて有効な経営手法です。市場や技術の前提が大きく変わらない環境下では、継続的な改善の積み重ねが大きな成果を生み出します。

しかし現在、企業を取り巻く経営環境は大きく変化しています。生成AI、GX(グリーントランスフォーメーション)、地政学リスク、経済安全保障、国内の人口減少など、経営の前提条件そのものが大きく揺らぎ始めています。

このような環境下では、既存事業の改善だけでは対応しきれない場面も増えています。むしろ重要なのは、将来の社会や市場変化を見据え、新たな成長機会を構想し、事業ポートフォリオを継続的に見直しながら、人材・資金・技術などの経営資源を戦略的に配分することです。

どの事業を伸ばし、どの事業を見直すのか。どの技術や無形資産に投資するのか。どの社会課題を成長機会として捉えるのか。こうした意思決定は、企業の未来を創り出す価値創造そのものと言えます。

成長投資ガイダンスは、日本企業に対し、これまで培ってきた「改善型経営」の強みを活かしながら、その先にある「価値創造型経営」への進化を促しています。

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遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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キーワード: #価値創造

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