企業家精神とサステナブル・イノベーションを考える――大企業に求められる、ソーシャル・イノベーションのスケールアップ

乳製品のグローバル企業Friesland Campinaは、ベトナムにおいて、15~20頭程度の牛を育てる小規模酪農家を対象に、生産性を上げて農家の収入を増やすことを目的とした教育プログラムを実施した。

具体的には、「雑菌が混入している牛乳は買い取らない」と明言し製品テストを実施することから着手した。すると農家は収入が減ることを恐れて品質を上げるよう努力するようになり、結果的に収入は増え自身と家族の生活が向上しただけでなく、サプライチェーンの改善にも結びつくこととなった。

さらに同社は、コミュニティの母親およびヘルスワーカーを対象として、カルシウムを含む牛乳を摂取することの意味と重要性を伝える栄養教育を実施し、乳製品の重要性をアピールした。カルシウム摂取は、子供の健康と成長に資するだけでなく骨粗しょう症などの病気の予防としても重要である。女性を教育し子供たちが摂取するようになることを通して、一生にわたる顧客を確保することにつながる。

アジアは乳製品の摂取量が多くない地域であるが、人々は同社の製品をより多く買うようになり、同社に対する信頼は増していった。このベトナムでの取り組みは、タイでもインドネシアでも展開可能だと考えられる。社会的課題に取り組み、利益を生むモデルであれば複製可能なのだ。

もう一つは、フィリピンの企業Sarangani CocoTech社による、ココナッツの外殻を活用した繊維製品づくりの事例である。ココナッツの中身を取り出した後は廃棄物になるはずだった外殻を農家から同社が購入することによって、小規模農家にとっては2次的な収入となる。購入した外殻を活用し、コミュニティの女性たちがマットの製造を行うことにより、ゴミは減り女性たちは収入を得る。

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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