環境経営学会が緊急提言を発表

緊急提言

1.「企業不祥事」の背景には、最終ユーザーである「消費者」ないし「需要家」の軽視がある。換言すれば、株主利益偏重主義に陥り、「企業は一体誰のために、何のために存在するのか」という原点を忘れた経営者が横行していると言える。経営者は、重要なステークホルダーである最終ユーザーの立場を徹底的に重視すべきである。

2.経営者は、少なくとも日本経団連の「企業行動憲章」に則り、行動を律するべきである。「企業行動憲章」は本来企業経営に当たる者にとって、普遍的に持つべき常識を謳った経営指針であり、経営者自らの行動規範である。2010年に日本経団連は、この「企業行動憲章」の抜本的改革を行った。企業の役割について、1991年策定以来不変であった「企業は、公正な競争を通じて利潤を追求するという経済的主体である」を削除し、「公正な競争を通じて付加価値を創出し、雇用を生み出すなど経済社会の発展を担う」とする規範に変えた。この改訂後の憲章が遵守されておらず形骸化しているために企業不祥事が後をたたないといっても過言ではない。経営者は、同改訂に示された意識の大変革を常に意識し、行動を律するべきである。

3.経営者は、取締役会の権限と責任を明確にすべきである。取締役会の権限と責任の明確化に関しては、取締役の相互牽制機能を強化し、対象が代表取締役であろうと、取締役であろうと、経営行動に疑念を抱いたときは、社外取締役を待つまでもなく、すべての取締役が倫理観に裏付けされた自らの信念に基づきこれを差し止める勇気と責任を持たねばならない。取締役の善管注意義務と監督・(相互)監視義務の励行を促し、これを怠った場合は、会社に対する取締役としての忠実義務に違背し、不作為責任を負うことを、社内規則等で明記すべきである。更に、過怠に対しては、民事責任や刑事罰の強化などの法改正も検討すべきである。

4.経営者は、「ガバナンス報告書」を、自らの言葉で語るべきである。経営者は、2015年に制定されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の精神を深く理解・認識し、「ガバナンス報告書」を中長期の企業経営目標と整合させ、経営者自らの言葉で語るべきである。CGコードは法規制に基づく「規則」ではなく、東京証券取引所に上場している企業が遵守しなければならないソフトローである。すなわち「規制を基盤(Rule-Based)」としたものではなく、「原則を基盤(Principle-Based)」としたものであり、「何を」、「何故」、「どこまでやるか」は経営者自らが判断する極めて重要な経営意思決定であり、レスポンシビリティ(社会に応える対応力)そのものである。

2015年度が初年度でありやむを得ない点はあるとしても、発行された「ガバナンス報告書」の多くは表面的な記述に止まっているように思われる。東証はXBRLでの報告書作成を要求しており、経年比較、他社比較が極めて容易であることから、数年後には投資家たちからの厳しい見方にさらされることをよく考えるべきである。

5.機関投資家は、中長期的な企業の持続可能性を判断する実力の向上に注力すべきである。機関投資家等のサステナビリティやESGについてのリテラシーは現状では高いとはいえない状況にある。金融機関を含む機関投資家は「スチュワードシップ・コード」に署名し、早急にコード原則7の「中長期的な企業の持続可能性を判断する実力の向上」に注力すべきである。

また、機関投資家は、このような実力を向上させた上で、建設的な対話の中で経営者を監視し、健全な発展に資する提言等を行うことが受託者の責任であることを深く認識し実行すべきである。実行しないことはフィデューシャリー・デューティに反すると認識・意識しなければならない。

6.規制当局及び証券取引所は、四半期報告制度を見直すべきである。企業不祥事が多発する背景には、短期の利益至上主義がある。これを助長する可能性の高い四半期報告(四半期決算)制度の廃止を実現させることを提言したい。また、短期収益偏重とも無関係とは言えない「時価会計制度のあり方」の検討も必要であろう。

7. 経営者は、短期主義から脱して、中長期的な価値創造とともに持続可能な発展への貢献を目指す長期目標を策定すべきである。例を環境問題にとってみれば、企業は21世紀末を見据え、少なくともカーボンについては2050年チャレンジ目標を策定し公表すべきである。国連「持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)」やパリ協定をみれば、目標を策定公表しないことは企業の社会的責任の放棄である。

環境省「環境にやさしい企業行動調査(2015年度)」によればカーボンについて10年以上の目標を持つ企業は9%に止まっている。2050年に80%以上削減という日本が世界に公表した目標を達成するには生産・流通・消費構造を大きく変更(Innovation, Transformation)させねばならない。しかし、現状多くの企業は中期計画と称する3年程度の目標しか掲げておらず、世界の実力ある企業の常識から見ればかなりかけ離れた対応と言わざるを得ない。

なお、日本企業の場合、目標は「必達」という意味合いが強く、これが縛りとなって長期目標の作成をより困難にしている面も否定できない。欧米の “Goal”は多くの場合優先事項(Priorities)であり、望ましい目標(Aspirations)の意味合いである。日本企業の経営者は、優先事項又は望ましい目標として長期目標を掲げるべきである。

8.経営者は、不正を許さない企業風土の構築に不断の努力を傾注すべきである。そのための1つの策として、2015年に11年ぶりに大改訂されたISO14001の徹底的な活用が望ましい。ツールとしてはCSRやサプライチェーンのマネジメントにも使える優れものである。

ISO14001改訂版を活用し、経営管理において、本社はガバナンスの方針・戦略・目標を立て、本社以外、関連会社の末端まで、それに沿った方針・目標・行動計画を立てさせる。厳正・公正な第三者機関を使い認証取得させることでガバナンスがマネジメントされていることを担保すべきである。内部管理だけでは不十分である。CSR調達方針の策定とサプライ・チェーンに対するデュー・ディリジェンスの実施も必要になる。

9.公認会計士は、職業的猜疑心を持って監査し、経営者の関与する虚偽表示を識別・評価するべきである。2016年1月、公認会計士協会監査業務審査会は、度重なる会計不祥事を受けて、「財務諸表監査における不正への対応~不正による重要な虚偽表示を見逃さないために~」と題する提言を発表した。企業の会計監査人たる公認会計士は、この提言を真摯に受け止め、経営者が長期的展望に基づき、業務を適正に行っているかを、職業的猜疑心をもって厳正に監査し、経営者が関与する不正による虚偽表示を識別・評価し、企業不祥事を未然に防ぐ砦としての役割を果たすべきである。

10.労働組合もまた、経営者の透明性・公正性に目を光らせ、不正を未然に防ぐための監視を行うことに意を払うべきである。

以 上

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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